31 オートニュースエディター
マスメディアあるいはマスコミとは大衆に情報を伝達する媒体という意味である。メディアは情報の流し手となる側と情報の受け手となる側に情報の非対称性すなわち差別があることを前提としている。情報を流す側には、政府、政党、宗教団体、商品やサービスの広告主などがある。情報を受け取る側は国民や消費者などの大衆である。情報の真実性にこだわった情報の流し手はジャーナリストとよばれ、真実性にこだわった情報発信をジャーナリズムという。真実の情報は現場にあるのでジャーナリストは現場にいる。現場にいない自称ジャーナリストは評論家にすぎない。
2010年代以降、世界的なインターネットの通信容量の拡大によって、情報伝達が多極的、対称的、同時的となった。その結果、2020年代になると既存のメディアが淘汰され、インターネットメディアだけが生き残った。新聞はなくなり、テレビはあってもテレビ局による放送はなく、100万チャンネルを超える動画サイトがとってかわった。だがそれも長続きはしなかった。動画サイトのコンテンツは品質の劣化が著しく、また100万チャンネルもあったのでは、どのサイトを見ていいのか選べなかったからである。
2035年、画期的なサイトが登場した。自動的にニュース番組を編集して放送するANEである。ANEは、インターネット上のあらゆる情報を検索し、ニュースとしての価値のある情報を自動選定し、ニュースコンテンツとして自動編集し、重要性評価と信憑性評価を付加して放送する。100のジャンルと200の国の2万通りの組み合わせを任意に選んで100チャンネルまで設定することができる。重要性評価又は信憑性評価が高いニュースだけを視聴することもできる。また一度放送されたニュースは録画しなくても30日間は自由に再視聴することができ、それ以降もアーカイブとして有料視聴できる。
ANEの成功によって、類似の自動編集ニュースサイトが次々と登場し、コンテンツの品質を競うようになった。なお、自動編集ニュースサイトは無料視聴である。
ニュースとならんで旧テレビ局の人気コンテンツだったドラマにも新機軸が登場した。過去の人気ドラマを自動的にリメイクするADRである。時代設定、場所設定、言語設定、人物設定を自由に変えることができ、モノクロドラマをカラードラマに変更することもできるし、3Dドラマへのリメイクもできる。もっとも人気が」あるオプションは登場自分を自分の好きな俳優に差し替えるリキャスティングである。たとえばスーパーマンをスーパーウーマンにすることもできるし、刑事コロンボを韓流ドラマにすることも可能である。ARDは原則として有料視聴もしくは会員視聴である。ARDが人気になったことで、オリジナルドラマも改めて人気になっている。
2038年、波風収一郎は首相として初めて、自身のインヴィジブルフォンにぶら下がりを認めた。ぶら下がりとはメディアが要人を野良犬のように取り囲んで取材することである。インヴィジブルフォンのぶら下がりとは、メディアにインヴィジブルフォンへのパラサイト(寄生)を認め、その映像をリアルタイムで記者に配信することである。これによって首相が、だれと会って何を話したかがガラス張りになる。もちろん、プライベートな時間にはインヴィジブルフォンを交換することで、秘密を守ることができる。ぶら下がり映像はそのままでは公開されず、ANEによってニュースに編集されてから配信される。
波風首相の英断は国民に喝采をもって迎えられたが、密室政治が必要だとする保守系政治家からは眉唾という批判も聞こえてくる。




