彼氏の誤算
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授業が終わった頃、教室に戻ると晴紀が俺を見つけ、かけよってきた。
「颯、おまえどこ行ってたんだよ」
あ…そういや、こいつ置いて俺逃げたんだった。
「悪りぃ、屋上」
「屋上!?寒いのに屋上でお前何してたんだよ」
頬は腫れてなかった…たいして強くも叩かれなかったしな。
あいつ…怒りながら泣いてた。意味わかんねぇ…。
なぐさめるつもりが、俺が適当に付き合ってたみたいに言うから、ムカついた。
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休み時間…
「なぁ、日曜おまえ一緒にくるよな」
いつもテンション高めな晴紀の周りにさらに花が咲いてる。
「なに、日曜なんかあったっけ?」
「マユたちと映画。お前も見たいって言ってたやつだぜ!!」
「誰が行くかよ…俺いても邪魔だろ。2人で行ってこいよ」
晴紀は5組のマユっていう奴に夢中だ。
素直っつーか、感情が態度にだだもれ…。
こいつのこういうとこ、すげぇよな。
何考えてっか分かんねぇとか無愛想とか言われている俺とは大違いだ。
ついため息がでてしまった。
「いや、ユキちゃんも行くから、あと友達も。あ、タクもな。」
嬉しそうな笑顔…タクは晴紀と同様つるんでる奴の1人だ。
「なおさら、俺行くの嫌なんだけど…俺がユキ苦手なのお前知ってるだろ」
「まぁ、そういうなってお前今、東子ちゃんと別れてっし、別にいいじゃん」
「そういう問題じゃねぇ」
「お前もまた彼女作れば?モテんだし」
は!?なんでお前も木原と同じこと言うんだよ…
「なぁ、晴紀。俺木原と適当に付き合ってるようにみえたか?」
「え!?何、東子ちゃん!?いや…適当つーか、まぁそんな好きって感じには見えなかったけど。なんで付き合ったかも俺正直よく分かんねぇし」
マジかよ…。木原があんな風に言うのって俺の態度の問題か?
「まぁ…お前が女にデレてんのも気持ち悪いけどな。で…日曜頼むよ、もう約束しちゃったし…あ、タクお前さ…」
晴紀は戸口んとこタクの姿を見つけ、タクにも交渉に行った。
俺…あいつに優しくなかったか?
そんだけ酷いことしてたのか?
***
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あいつと偶然会った屋上…泣き顔見て驚いた。
なんかその顔が頭から離れなかった。
どんな奴なのか知っていって、普段は強気で…強気っつーか、素直な奴だって思った。笑ったり怒ったり…ただ悲しいのは見せずに我慢して、隠れて泣いて。女っぽいかんじが恥ずかしいらしくて…誤魔化すようなしぐさや態度もなんか逆に可愛く見えた。
そんな奴からの予想もしてなかった告白。
断る理由なんてねぇし、男なら当然嬉しいに決まってんだろ。
で…すぐに幼馴染み…元カレ、谷口の存在を知る。
いや、でも終わってることだし、木原ももういいって言ってたし、今付き合ってんの俺だしな。
そう思ってた…
けど、2人はいつも一緒にいるしあいつも楽しそうだし…正直気分がいいものじゃねぇし。
優しくできなかったつーなら、原因はこれだと思う、確実に。
あいつに半年付き合って手が出せなかったのは、別に木原に色気がねぇとか、俺にそんな気がねぇとかじゃない。ただ、あいつが誰を想ってるか正直分かんなくなったからだ。
あん時、流されたのは俺の誤算。
木原と俺との関係がどっかで崩れてしまった気がする。
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スマホが鳴る。
『さっきはごめん。ちゃんと颯と話したい。放課後教室に行ってもいい?自分勝手でごめん』
木原からのメールだった。