第6話:騎士を追って
(え……⁉)
目を疑ったので、よくよく見てみた。
もこもこと分厚い黒の外套とお城の騎士装束から一変。剣こそ腰に差してはいるけれど、安っぽい民間の騎士の装いをした青年が、城下町の通りを歩いている。
それでも、同一人物だと分かる。
黒髪に紅色の瞳、人混みから飛び出す長身、逞しい筋肉は、間違いなく私に辛酸を舐めさせた憎き騎士だ。
(私の魔法で眠らずに、私を追いかけ回して、私を羽交い絞めにしかけた、あの……あいつ!)
背中から抱きしめるように捕らえられたのを思い出すと、カーッと頭に血が上り、ポンッと羞恥心が破裂した。
(許しまじ!)
「う~っ! 私、馬車酔いしたので降ります!」
「クリスティナ⁉」
お兄さまが驚きの声を上げ、さすがのお父さまも目を開けたけれど、私は止まらなかった。止まるわけにはいかなかった。
お父さま仕込みの身体能力を活かして、走行中の馬車からぽーんっと飛び降りると、例の騎士を追って町へと全力疾走した。
(善は急げ! 名誉挽回作戦を実行するわ!)
あの騎士を路地裏に引きずり込み、聖魔法で眠らせる。お父さま、にっこり――決定だ。今からなら、陛下への報告内容も変えてもらえるかもしれない。
聖夜の装飾と賑わいを失った城下町は、祭りの余韻もそこそこに新年の支度を始めている。行きかう人々は底冷えの気候の中を忙しく歩き、例の騎士の歩みもそれに合わせて速くなる。
見失うわけにはいかないと、私は彼を追ってレンガ造りのカフェに突撃した。
「逃がさな――」
「いらっしゃいませ。申し訳ございません。たった今満席になりまして」
入口で店員にストップをかけられ、うっかり、「いえ、私はお客じゃなくて」と口を滑らせてしまった。店員が怪訝そうに眉を寄せる。まずい。完全に不審者を見る目だ。
「えっと、私は、そのぅ」
悲しきかな。私はアドリブに弱かった。予習したら抜群の対応力を発揮するというのに。どうしよう。このままでは怪しい女として、店から追い出されてしまう。騎士の尾行どこではなくなる――。
「ん? 君、前にどこかで会った?」
「え……?」
おろおろしていた私に助け舟を出した男性。それはなんと、件の騎士その人だった。
別の店員に席に案内されていた最中だった彼は、足を止めて私を振り返り、首を捻っている。
サァァッと血の気が引くのを感じた。
(もしかして、認識阻害魔法が上手く効いてなかった? 顔を見られてた……?)
改めて近くで見た騎士の顔は精悍さに溢れていたけれど、目の下に深い隈が刻まれていた。そのせいで整った顔立ちが若干人相悪く見えてしまう。紅色の瞳はルビーのようで、焦る私の顔が映し出されていた。
(まさか、私がサンタクロースだってことがバレて⁉ なにかこの場を切り抜ける言葉を言わないと――)
ドッドッドッと心臓が脈打つ。血の気が引くのに血液が全身に送り出されている感覚があるなら、いったい血液はどこに消えているんだろうなんて、今はどうでもいいことが脳裏に巡って思考が余計に白くなる。
「わ、私は」
「あ~、もう。ナンパが下手だなあ」
「え? ナンパ?」
割り込んできた幼い声に、私の目はテンになった。
今まで気付かなかったけれど、騎士の逞しい体に隠れていた少年が、私を見上げてにっこりと微笑んでいた。
商家のお坊ちゃまのような装いの12、3歳くらいの子だ。艶のある紺色の髪に聡明そうな琥珀色の瞳をしている。
(誰⁉ この騎士の主人?)
「いえ、俺はそんなつもりで声をかけたわけでは……」
「照れちゃってさ。お姉さん、相席しようよ。お代は僕らが持つからさ!」
「えっ」
「えっ」
騎士と私は、顔を見合わせた。
どうしよう。私はアドリブに弱いのに。




