終話 また無断欠勤か
翌朝。
いつも通りコーヒーカップを持って出社した店長が、事務所に入ると二人の姿がなかった。
タイムカードのラックを見ると、新しいカードが二枚差し込まれていた。
打刻時刻は、午前二時十五分だった。
店長はそれを一瞥し、すぐ目を逸らした。
新聞を広げた。
ページをめくる手が、かすかに震えていた。
しばらくして、黒崎さんが出勤してきた。
事務所に入り、タイムカードのラックをゆっくり確認した。
二枚の新しいカードを見つけた。
目を閉じた。
一秒だけ、動きを止めた。
それからそっとカードをラックに戻し、何も言わずにエプロンをつけて売り場に出ていった。
◇
その日の昼過ぎ、副店長の自宅に警察が向かった。
玄関のドアが開きっぱなしで、連絡が取れないという近隣住民からの通報だった。
室内に人の気配はなかった。
クローゼットの扉が開いたままになっていた。
中に何が残っていて、何がなくなっているのか、確かめられる者はいなかった。
ダイニングテーブルの上に、書きかけのメモが一枚残されていた。
「もう」
それだけ書かれて、続きはなかった。
食卓の上に、ラップをかけた皿が一つ残っていた。
中身は、煮物だった。
冷めていた。
誰のために作られていたのかは、分からなかった。
近隣に住む老人が一人、その日の未明、女性が一人、駅の方角へ向かって歩いていくのを見たと話した。
顔ははっきり見えなかったという。
それ以上のことは、誰も分からなかった。
◇
バックヤードの通路を、大きな人影が歩いていった。
いつも通り、精肉の作業場へ向かっていった。
店長はその背中を見て、小さく頭を下げた。
事務所の窓から、神社のフェンスの前が見えた。
名札が並んで置かれていた。
何枚あるのか、遠くて数えられなかった。
店長はそちらを見なかった。
コーヒーを一口飲み、小さく呟いた。
「また補充しないといけないな」
◇
この日は十三日。
ニコニコセールだった。
開店前から、駐車場が埋まり始めていた。
朝から、やけに蒸し暑かった。
店の周りだけ、風が一切なかった。
閉店後、売り上げ日報を確認した経理の女性が、首を傾けた。
今日一番売れた商品の欄に、いつもの名前があった。
「おすすめの惣菜」。
今日も、完売だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
続きが気になった方は、ぜひ次の話もお楽しみにしてください。
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