冬到来①
「あんたね、それはダグマに遊ばれたのよ」
前日、ダグマに言われたことをロセに話したら一刀両断だった。アデリーだってそうだと思っていたが、こうもハッキリ言われると少しだけへこんだ。
「ここの長になんて私がなれっこないものね」
アデリーがいじけながら返すと、ロセは動かしていた手を止めた。
ここのところ、雪が降ることが多くなっていた。夜は暖炉をつけ、ロセはそこで鍋をかけて薬草を煮込んだりしている。余りに臭う草はこの部屋でやらないとロセが宣言した通り、大抵はいい香りのものが多かった。
「そこじゃないわよ。アデリーが長になるのは別にいいんじゃない? あんた好かれているし、いい提案だわ。遊ばれてるのはダグマがアデリーを嫁に貰うところよ」
「嫁になんて言ってないわ」
ロセは鍋の中身を覗き込み、また大匙でくるくる掻き混ぜていく。
「体の関係? アデリーを慰み者にはしないわよ。長にするって言い出すくらいだもの。でも、ダグマは近衛騎士団の団長だった人でしょ? そんな人が明らかに処女のアデリーを相手にするかしら。そういう趣味なら話は違うけど」
アデリーは顔から火を噴く勢いだった。
「なんでそれを……」
「処女かどうか? そんなの誰が見てもわかるわよ。隠してるつもりなら、全然うまくいってないわ。ダグマはさ、それこそモテて仕方なかったと思うのよね。近衛よ? 騎士団よ? しかも団長。女なんてよりどりみどりだわ」
ロセは性的な話も至って何事もないように話すが、アデリーは聞いているだけでソワソワした。おかげでシーツ作りをしていた手も完全に停止中になっていた。
「私だって、本気にはしてないわよ。ただちょっと嬉しかったけど……」
ドロっとした液体を大匙で掬うと、火の近くまで持っていって、状態を確認し、ロセはまた鍋を掻き混ぜた。
「実際さ、ダグマとアデリーがくっつくのは悪くないのよ。アデリーがここの長になるなら、あれだけのリーダーシップをとれる男は必要だわ。だからさ、ダグマを本気にさせる方法を考えなきゃね」
いっそ、処女をニコラスあたりに貰ってもらえばいいと真顔でロセが言うので、アデリーは目が回りそうだった。
「それってそんなに問題なの?」
ロセは肩を竦めて「面倒だと思う男もいるわね。時々、処女と寝ると若返るなんていう迷信から金持ちの男が欲しがることもあるけれど」などと言うものだからアデリーは自分の認識とあまりに違うので愕然としていた。
「私は結婚相手にその……初めてを捧げるべきだと教わったわ」
ロセは振り返りアデリーを見つめた。
「なるほどね。それは金持ちの思考だわ。世継ぎがどこの誰だがわからない男のタネだったら後々問題になるものね」
アデリーはまた頬を赤らめて「もうロセ! 少しは言葉を慎んでよ」と、非難した。
「はいはい。でもさ、私ら庶民は一人でも多く産んで男の子を手に入れろと言われているのよ。成人するまで育つかもわからないし、働き手は重要だもの。だから、綺麗な言葉でいうところの──なんだっけ、ああ貞操観念なんて持ち合わせちゃいないのよ」
育った環境でこんなことまで違うのかと頭を叩かれたような衝撃だった。
「だから、処女に価値などないし、なんなら──ま、これ以上はさすがに言わないでおくわ。アデリーがひっくり返ったら困るから。とにかくよ、男と寝るのは普通なの! 一般庶民で子供が出来て右往左往するのは商売女だけ。子供が出来たら稼げないから」
ここで恐る恐るロセを上目遣いで見て、聞いてみた。
「じゃあ、あの、ロセももう?」
「もちろんよ。子供は居ないけどね。私は経済力のある男を選んで試したけど、まぁそう簡単には子供は出来ないわ。昔は今より栄養状態も良くなかったし、そうなると子供ってできにくいのよ」
色々驚くところだが「それは薬師の知識なの?」と、質問していた。
「一般常識。でもまぁ、薬師としての観点から言えば、体はややふくよかな方がいい。これはお腹の子供に栄養がいくからね。それから体を冷やすべきではないし、手に入るならザクロなんかを食べるといいわ。子宝を引き寄せる果実と呼ばれているの」
改めてロセの知識に感嘆し、恥ずかしさなんかは消えていった。
「私、あなたを尊敬するわ。薬師になれるなら私もなりたい」
ロセは眉間に皺を寄せて「ヤマドリタケとヤマドリタケモドキを区別できないのに? あんたはダグマとくっついてここの長になりなさいよ。それが一番適任なんですから」と、キッパリ言い切った。




