秘密④
目眩が止まらず、意識が朦朧とするが、アデリーは何とかベッドに手をついて耐えていた。
「んー、眠いなら寝たらいい。耐えることないよ」
慌てて介護することもないリルにアデリーは違和感を覚え、ありったけの力を出して何とか立ち上がった。するとここでリルが手を伸ばしてきた。それは介添するわけではなく、アデリーの手首を掴んだだけだった。
「おっと! どこ行くんだ」
「は、は……離して」
立っていることに精一杯で手を振りほどく事ができない。それどころか手荒にベッドへ転がされてしまった。いくら藁の詰められたベッドでも息ができないほどの衝撃を受け、アデリーはあまりのことに喘いだ。
「せっかく穏便に済まそうと思ったのに、なんなんだよ、まったく」
リルは悪態をついてからアデリーの服を荒々しく捲りあげる。悲鳴を上げようとしたら、リルの手がアデリーの口を押さえて封じた。
「騒ぐなって」
リルが執拗にアデリーの下着の上に手を這わせ、やっと目的のものを探し当てて引っ張った。リルの目当てはアデリーの下げている巾着だった。けれど引っ張っただけでは肩から下げているので取れない。何度か引っ張って取ろうと試みて居たが、しっかりとした紐でできていたのでビクともしなかった。その分、毎回肩に紐が食い込んでアデリーはくぐもった声で悲鳴を上げる。
その時、作業場のドアが開いて月明かりが差し込んだ。
「リル、私の薬の瓶が足りないんだけど──」
奥の部屋のドアが開いていたのでロゼがそのまま入ってきて息を飲んだ
「え? なにやってんのよ」
「ロセ、助け──」
アデリーがロセに助けを求めようとした時、リルが突然アデリーから離れてロセの服を掴み、恐ろしいことにロセの腹部を殴った。
「ああ! ロセ!」
掠れた声で呼びかけたアデリーの前でロセが腹部を押さえてよろめいた。
「リル、何を──」
再び殴りかかろうとするリルにアデリーは背後から掴みかかった。
「や、止めて!」
何とか服に触れたあたりで直ぐに振り払われ、アデリーは床に転がった。力が入らないのに痛みは感じ、低く唸った。
「アデリー! 誰か、誰か来て──」
まだ立ち上がれてないロセはそのまま這いつくばって部屋から出て助けを呼ぼうとした。するとリルはそんなロセを蹴り上げた。
「やっ──」
ロセの体が横倒しになったのを見て、アデリーはとっさにベニートから渡されたナイフに手を置いた。パニックになりながらも、リルの容赦ない攻撃に対抗しなければと鞘からナイフを引き抜いた。アデリーの体が思うように動かないのを知っているリルは、そうではないロセをターゲットにしているのは明白だ。このままではロセが大変なことになる。
よろけながらナイフを振りかざすと、リルの背に浅く刺さった。しかし力が入らないアデリーにはリルの怒りに火を注ぐことしかできなかったらしい。
「クソ!」
烈火の如く怒ったリルは、アデリーからナイフをもぎ取るとアデリーの横腹をそのまま刺す。アデリーは腹部に強烈な熱さを感じて「う……」と呻いて手を充てがった。同時に巾着が自分から離れていくのを見ていた。リルはアデリーの巾着を取ったのだ。そしてそのままナイフを持って駆け出し、部屋を出ていった。
ロセがなんとか立ち上がると転がるようにヨロヨロとアデリーの元へやってきて、アデリーの手の上から自分の手を重ねる。
「アデリー」
「ロセ……」
「止血、そう止血をしなきゃ」
ロセの声が震えていた。
「ロセは大丈夫……?」
ロセが頷いた時、戸口に人影が現れて月明かりが遮られた。ギクッと恐怖を感じたところで「なんだ? こりゃ、一体……アデリーのそれは血か?」と、独特のイントネーションの声が聞こえた。マリオだ。
「おい、ゴーダ! 大変だ。皆に知らせてくれ!」
マリオの兄で農夫のゴーダも一緒らしい。リルが戻ったわけではなかった。男の人が二人も駆け付けてくれたことにアデリーは体から力が抜けていく。




