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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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ナタリー無双!!

「蹴散らせち言われても……こん数は、ちっとばっかい多すぎっど」

“ドンッドンッドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!”

そう言いながらバルホーンへと踏み込む豊久の足元の小石が陣太鼓の調子に合わせて踊る。


「さっきからおぬしの近くにいると“ドンッドンッ”と太鼓の音が腹に響いて、不思議と力が湧いてくるのだが?」

平塚為広が首を傾げながら、槍の石突ちで蜘蛛猿の額を爆散させる。


「ああ、伊織とかいう巫女さんが言うちょった。おいには陣太鼓の付喪神が憑いちょって、その音を聞いた味方の士気をぶち上げるげな。

……して、平塚さん、あんたに憑いちょる付喪神は、えらい凶悪そうじゃね」


「付喪神?そんなものが憑いているのか?俺の刀が触れた物が弾けるのは付喪神の仕業ということか?」

自分の黒ずんだ右手を見る平塚為広。


「ああ、こん男、留造にはトリモチの付喪神が憑いちょるげな。竹槍で突っついたもんなら、くっつけてしまうちよ。

……そいよりも平塚さん、あんたの腕……炭んごとなっておっどん、痛うはなかね?」

バルホーンを突いた勢いで尻もちをつきそうになった留造の襟首を持って支える豊久。

目の前にはバルホーンの脇腹と蜘蛛猿の肩がトリモチでくっつき藻掻いており、それぞれの首筋に剣先を走らせる豊久。


「痛いがそんなことも言っておられんだろう?斬っても斬っても湧いてくるのだからな……」


侍たちの頭上の枝葉が大きく揺らぎ、地面の砂が舞い上がる。

魔晶船の船底が侍たちの頭上に影を作り。


「退きなーーーーーっ!!!」

ナタリーが伊織に教わった日ノ本語に言の葉を乗せ叫ぶ!

不意に頭上から降ってくる直接脳内に響き渡るような声に、無条件に身体が反応し転がるように後退る侍たち。


“シューヴァ·ペドラ!!”

“チュッドンッ!ドッドッドッドッドッドドッドッドッドッドッドッドッドドッドドッドドッドドッド!!”

拳ほどの岩が侍たちの居た街道に降り注ぎ、一瞬頭上を見上げた魔獣たちの身体を地面に張り付ける。


“チュッドンッ!ドッドッドッドッドッドドッドッドッドッドッドッドッドッドッドドッドッドッドドッド!!”

張り出した枝葉を巻き込み、岩の豪雨がゴンドラから伸びたナタリーの腕の動きに合わせ、街道を舐めるように

北へと流れていく。


凶悪な破壊音が止み、静寂が訪れる。折り重なるように倒れた魔獣たちの死骸の上にゆっくりと落ち葉が降る。

「今のうちに退くんだーー!」

湯浅五助の声が、侍たちの意識を引き戻すと怪我人を引き摺りながら草原へと向けて走り出す。


「あれが、魔法というものか!?」

「なんちゅー威力じゃ!」

「あんな物をくらったら、ひとたまりもないのう〜」

這うように前へと進みながら、後ろを振り返り惨状に肝を冷やす。


後方にいて難を逃れた魔獣たちが、岩と魔獣の死骸が重なった上を飛ぶように走り侍たちの背中を追う。


“パレッジ·ペドラ!!”

岩のぶつかり合う音をたて、地面が盛り上がると魔獣たちの行く手を阻む岩の壁がそそり立つ。

勢い余って岩の壁に激突する魔獣たち、高度を下げた魔晶船からナタリーの岩の礫とムサシの矢の雨が街道を

覆い尽くすように降り注ぎ、魔獣の死骸の上にさらなる魔獣の死骸が重なり肉塊の山が出来上がる。


【これで時間を稼げたろう、あそこに見えているゴーレムやオーガは足が遅いからね、予定通り草原にでてから

迎え撃つよ……ちなみにあいつらはダンジョン中層の魔獣だからね、強いよ】

ナタリーが街道の先に見えている、大きな影を指さし顔をしかめる。


【ナタリー様の岩の魔法があれば、あの大きいのも一撃ではないのですか?】

ナタリーの魔法に感動した伊織が、畏敬の念を込めた目で見る。


【あのゴーレムには土魔法は相性が悪いからね、火魔法で熱して水魔法で冷やしてやると脆くなるのさ……

物理攻撃だけで倒すのは難しいね】


【ナタリー様は火魔法も水魔法も使えるのですか!?】


【ああ、あたしもここに居るアンナも7つの属性魔法が使えるよ、エルフの中でも1万人に1人と言われているんだ。

さて……ここは大丈夫そうだね、アンナ東に行くよ】


魔晶船が侍たちの頭上を通りすぎ東へと船首を向け加速する。

「平塚君!よくぞ無事でいてくれた!!後でここの酒でも飲もう!!」

大谷吉継が白頭巾を取り、眼下の平塚為広に向けて嬉しそうに手を振り続けていた。






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