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黄泉渡り伊織 ーー関ヶ原で滅した六千の魂を抱く巫女ーー  作者: 結城謙三


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岩の巨人

「中隊長ーーっ!馬ーーっ!!」


「いらん!走るほうが早かっ!」

点々と倒れている隊員の様態を確認しながら岩の化け物へと駆ける。


「うちん兵ば……ようなこっしてくれたな。覚悟しとけよ!」

そう独り言ちる豊久の背後に蹄の音が近づいてくる。


「中隊長!乗ってください!」

その声に振り向いた豊久の右脇に男の左手がするりっと入り、身体が持ち上がると男と背中合わせの格好で

馬の背に収まる。


「おまん……なっばしたか!? 名は、なんちゅうか?」

首をひねり叫ぶ。


「引き上げただけです!倉田斗真といいます。突っ込みますんでしっかり掴まってください!」

“どこを掴んだらええんじゃ?”そう思いながら後ろ手に鞍の縁を掴むと“キュッ”という感触が手に伝わり

尻が馬の背に吸い付き、まるで空に浮かんでいるかのような浮遊感に包まれる。


「引き上げただけち……甲冑ば着たおいん目方ば、片腕で引き上げらるっはずなかろうが?

これも大谷刑部の言っていた付喪神が憑いちょういうことか?……こん鞍?」

後ろを向きながら独り言ちる、豊久の言葉は斗真には届いていない。


後ろに続く隊員たちを一脚ごとにぐんぐんと引き離し、岩の化け物を囲んでいる隊員たちの間をすり抜けると

速度を落とすことなく岩の巨人に迫る。

それを何の表情も感じられない目で捉えた岩の巨人は、手にしている丸太を横に薙ぐ!

腹がつきそうなほどに走りながら身を屈めた馬が岩の巨人の横をすり抜け、斗真と豊久の頭上を“ぶぉんっ!”

という空気を砕く音と風圧が過ぎると、すれ違いざまに急制動から前脚を極限まで屈した馬が巨大な弓弦の

如く後ろ脚で岩の巨人の腰を蹴り上げる。


たたらを踏み前のめりに膝を付く岩の巨人……

「「「うおおおおぉぉぉぉっ!!!!」」」

完成とともにそれぞれ手にした武具で一斉に斬り掛かる隊員たち。



“ドンッドンッドンッドッドッドッドッ!” “ドンッドッドッドッドッ!”

倉田斗真の操る馬から飛び降りた島津豊久の足元からはっきりと陣太鼓の音が響き、地面の小石が踊る。


「くらすぞーーーーっ!!!!!」

“ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!”

太鼓の音に合わせて槍が打刀が矢が岩の巨人を削っていく、しかしなんの痛みも感じていないのかゆっくりと

立ち上がろうとする岩の巨人に陣笠に板切れを腹巻に挟んだだけの貧相な男が竹槍を持って突っ込んで行く。

竹槍の先が岩の巨人の折れ曲がった左膝に触れる……それを振り払おうと膝を叩いた手が膝から離れずに

力任せに引き離そうとするが“ギチギチッ”とどこかの関節が悲鳴を上げる。

膝からわずかに浮いた手の平に黄色い餅のような物が糸を引き、磁石が引き合うように膝へと戻る。


何が起きたのかわからずに貧相な男を見る隊員たち。


「やっと動きを止めてもらえたので、ひっつける事ができやした」

卑屈な笑みを浮かべながらボサボサの髪を掻き毟る。


「お前……何をしたんだ!?」

隣りにいた隊員が聞く。


「へぇ……トリモチでくっつけやした。今のうちに息の根を止めやしょう!」

自由な方の右手で丸太を振り回している岩の巨人の背後から息を潜めて回り込むと、丸太を振り下ろした

右腕の脇の下にそっと竹槍の先を差し込む。

“ギッシギッシ!”岩の擦れ合う音に

右腕まで固定された岩の巨人が頭部に乗った大岩の口の部分が裂け、初めて声を上げる。

“ウオオオオオオオッ〜ォォォォォンンンッーーーー”凄まじい音量に思わず耳を塞ぐ。


「こいはやっせん……仲間を呼びようか?」


「ちゃっちゃと、とどめ刺してしまわんといけんよ!」

島津豊久の脇を抜け、狩野忠基が長槍を手に岩の巨人の前に立つ……左脚を前に腰を落とすと右脚が土を蹴り

身体全体が押し出され、流れるような動作から穂先が岩の巨人の喉元へと吸い込まれていく!


“ガッチンンンンン!!!”

強烈な衝撃に槍がしなり中ほどで砕ける。岩の巨人の喉元に大きな火花が上がり小さな岩がこぼれ落ちた。

何事も無かったかのように自由を取り戻そうともがく岩の巨人……


「がんこに硬いねぇ! どうやって倒したらええんかねぇ?」

手が痺れているのか、両手を広げて“ふぅ~ふぅ~”吐息を吹きかける忠基。


「ちっとずつでも、削っていくよりほかはなかろうが?」

30人以上の隊員たちが岩の巨人を囲み武具を振り下ろし続ける。

ときおり遠吠えのように声を上げる岩の巨人に隊員たちの焦りが募っていくのだった。


「おい!おまんのトリモチで口を塞ぐことはできんかい?」

豊久は竹槍の男を手で呼び寄せると岩の巨人の頭部を指差す。


「へぇ……あっしの竹槍ではあそこまで届きゃしやせん」


「そうか……まあ動きを封じてくれただけでもよか働きをしてくれた。トリモチの付喪神とはな……

名はなんちゅうか?」


「へぇ……古河村の留造といいやす」


その時、岩の巨人の背後から2つの影が走り寄り、その一つが大きく飛ぶと岩の巨人の頭頂部に打刀を

振り下ろす!

わずかに食い込む刃先……一瞬隊員たちの動きが止まる……沈黙の中“ちりちりっ”と導火線の焼けるような

煙が走り“ぼんっ!!”くぐもった鈍い爆発音とともに岩の巨人の身体が頭から粉々に砕けていく。


広がる土煙の中で折れた刀を握り締めた平塚為広が叫ぶ!

「お前らも逃げろ!!とんでもない数の獣どもが来るぞ!!」

そう言うやいなや脱兎のごとく走り出す為広。


「……なんちゅう威力か……ち、おい! 待て! 逃げるち、なんごとか!?」

粉塵の中で叫ぶ豊久を置き去りに、為広の背中が遠ざかる。

その背後から、地響きのような唸り声が近づいてきていた。





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