ファースト·コンタクト
治安局長ハリスの迅速な指示の下、局員3名が検閲所へと走る。
すでに数時間も検閲所の待機室で、硬く粗末な木製のベンチに座らされている異国の戦士たちは
背筋を伸ばし、手を膝に揃えた姿勢で微動だにせず目を閉じていた。
検閲所へと飛び込んだ局員3名は職員にハリスからの指示書を見せるとガラス越しに9名の戦士を見る。
「ずっとあの様子なのか?」
「ああ……生きているのか心配になるほどに動かんな」
職員が答える。
「もしこの後も彼らの仲間が現れたら、すぐに治安局に連絡をくれ……」
そう言い待合所に入ると、左胸に拳を当てる王国式の敬礼のあと一人一人に3層までの入都許可証を
手渡し、微笑みながら手で退室を促す。
「ありがとう」
異国の戦士から始めて現地の言葉を聞き、振り返る局員
「ブランデン語を話せるのですか?」
白い頭巾を被り、仲間に支えられ歩く男に問い掛ける。
「少し……だけ……」
白い頭巾を被った男が首を振りながら答える。
「大谷刑部、我らはどうなるのですか?」
脇を支える湯浅五助が不安そうに聞いてくる。
「今は控えましょう、何かを企んでいると思われます」
武装も返され、局員の案内で検問所を通り、分厚い城壁を潜り王都へと足を踏み入れる。
前後を局員に挟まれ、王都3層街の目抜き通りを歩く、石畳の敷かれた道の幅は馬車が並走できるほどに広く
両側にはさまざまな商店が軒を連ね、買い物客で賑わっている。
石造りの建物は1階が店舗で3階、4階建てと上へと伸び、木製の窓を開けた住民だろうか?
興味深そうに見慣れない武装の一団を見下ろしていた。
しばらく歩いていると、食欲をそそる匂いが漂い、肉を焼いている香ばしい匂いや、嗅ぎ慣れない香辛料
の匂いに飲食店が並ぶ一角に出たのだと気づく。
局員の一人が異国の戦士たちの方を振り返り、腹を押さえながら口に何かをかき込むような身ぶり手ぶり
を繰り返す。
(腹は減っているか?)そう聞いているのだと理解した湯浅五助が頷いて答える。
手近な店に入り、腰を下ろすと局員が店員を呼びいくつかの料理を注文したようだ。
「少しだけ話せるといいましたが……いつこの国に来たのか話せますか?」
大谷吉継の前に座る局員が正面を見据え問い掛ける。
「昨日……」
大谷吉継が覚えた単語を並べ、話し始める。
「そう……気がついたら……いた。 この国に……遠くに……山が見えた。……」
大谷吉継が気づいたのは、広大な畑の真ん中だった。
関ヶ原で死んだはずの自分がなぜ?ここがいわゆる黄泉の国なのかとも考えたが、あまりにも世界が
現実的すぎたのだ。
肌に感じる風も、草木の匂いも、長年悩まされている脚の痛みも自分が生きている証だと判断した。
今いる場所を把握するために苦労して立ち上がり周りを見渡す。
すると驚いたことに、ほとんど失っていた視力が回復している……いや回復しているどころか目を凝らせば
かなり遠くの小さな鳥の顔までが見え、その羽ばたきまでが聞こえてきた。
それと引き換えるかのように痛めていた両膝の動きが悪化している、痛みで曲がらないのではなく……
まるで1本の棒にでもなったかのように膝を曲げることに大変な労力を必要としたのだ。
近くに落ちていた棒切れを杖代わりに立ち、懐から“対い蝶”の模様が染め抜かれた手拭いを取り出し
棒切れの先に縛り付けると高く掲げた。
どれほどの時間そうしていたのだろうか?
遮る物のない太陽が高天へと差し掛かり、吉継を容赦なく焼く。
朦朧としながら崩れ落ちた吉継だが、棒切れだけは掲げ続けた……
「……殿!……殿!……」
遠くから声が聞こえる……五助か?
「殿!お気を確かに!!」
湯浅五助が大谷吉継を抱え上げ、畑を出ると木陰で寝かせる。
「五助か……このようなところに来てまで、お前の手を煩わせるな……ん?もしや五助、お前も関ヶ原で
死んだのではないのか?」
「はい拙者は藤堂高刑の手に掛かり」
ふいに目の前の主君の介錯を努めたときの感触が手の平によみがえり、両手を広げ見つめる五助。
「なぜ……生きているのでしょう?」
「わからぬ、わからぬが僕とお前が生きているように関ヶ原のあの場で死んだ者が、もしかしたら
ここにはまだいるかもしれん……」
いいね!やブックマーク&評価などして下さると嬉しいです




