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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第四章】転移者と転生者
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第七十三話【異放人たち】

 ───図書館にある秘密の部屋。


 そこへ続く隠し扉をチーネが閉め忘れたせいで、司書のミルフィーと同僚のケンタが部屋に入ってきてしまった。


 話し合いの為に呼んだジューロ達とは違い、この2人は完全な部外者で(一人は図書館の司書ではあるが)。一応、無関係の人間だ。


「で、どうするのでござんす?これ…」


 ジェラードとシャーリーに尋ねる。

 無関係な2人を口封じする…などという話になれば、流石に見過ごす訳にもいかない。


『どうもこうも、完全にこちらの落ち度だからな』

「ですね…。何も見なかった事にしてもらうよう、お二人にお願いするしか…。ミルフィーさんは、ここの司書ですし。なんで図書館にこんな場所があるかの説明…というか弁明が必要でしょうけど」


 頭を抱え、うなだれる2人を見てジューロは少し不憫に思った。

 と同時に、誰かを害する意思は全くないことに安堵する。


 それはそれとして、こんなことになった原因のチーネはというと…。

 ジューロが部屋の隅っこへ視線を向けると、そこではチーネが【私は駄猫です】という札を首から下げ、正座をさせられていた。


「本当に…申し訳にゃい…です…」


 グリンも残念な人を見る眼差しをチーネに向ける。

「あの、これでよく怪盗とかやってこれましたね?」


『うん、見事に言い返せないな!耳が痛い。チーネとは色々あって、協力して貰っているのだが、今…ちょっとだけ後悔してるとこだ』


 チーネはグウの音も出ないようで、二人の会話を聞いてショックを受けるしか出来なかった。


『…けれども、チーネは信頼できる大切な仲間だ。性格に問題はあれど、本当にあれど、これでも本人の資質や能力は優秀なのだ。性格で台無しになっているが』


 フォローをしているのかどうか微妙な言い回しだが、言いたいことは分かる。

 チーネはせっかちで、正義感が強く、嘘を見抜ける特技がある癖に、嘘をつくのが下手な獣人だ。

 性格については置いておくとして、善良なのは間違いないし、そこは信用されているのだろう。


 …怪盗として致命的な気がするが、そこは言わないことにした。


「しかし、どうしましょう?いったん帰ってもらいます?」

 シャーリーが尋ねると、ジェラードは首を横へ振る。


『…いや、そこにいる彼も異放人のようだし、居てもらおう』

「えっ、彼も?そうなんですか?」


『あぁ、ついでだ。ここで話を聞いて貰った方が、説明する手間も省けていいからね』

 ジェラードはケンタを見ながらそう言った。


『よろしいかな?二人のお客人』

 ミルフィーとケンタに聞くと、二人は頷く。


『すまないね、ありがとう。出来るだけ手短に話すつもりだが、立ちっぱなしも何だ、二人もどうぞ座ってくれ』


 促された二人は、ジューロ達と同じように席につく。

 それを見届けると、ジェラードは改めて話を始めた。


『予定外の客人も居るからな、何を話すべきか…というか、そこの二人。ミルフィーさんと言ったっけ?もう一人は…えぇと』


「あ、自分はケンタと言います」


『うむ、ケンタさん。ここでの話は、どこまで聞いていたかね?』

「ええと、女神を倒すとか…危機がどうこうとかいう話は」


『あぁ、そうか…。肝心な話が聞こえてたのなら、遠慮せずに話してしまおう。それに考えてみれば、巻き込むとかの話は、とうに過ぎているからね』


 口振りからして、本当は巻き込まないように、二人への話は最低限に留めるつもりだったのかもしれない。

 だが、それは諦める判断をしたようだ。


『まずは改めて、私の立場を言っておこう。私は女神の敵対者であり、《異放人》と呼ばれている者だ。一応聞いておくが…、異放人という言葉を聞いたことはあるかね?』


「あ、はいっ!建国の逸話、おとぎ話に出てくるんですけど。こことは違う別の世界の───異世界からの放浪者。それが異放人だって…」

 リンカが返すと、司書のミルフィーも馴染みがあるようで頷いている。


 ジューロも話は聞いたことがある。


 ケンタがここを異世界であると断じ、ジューロの事をご先祖様だと言い出した時の事。

 気が触れたかと思っていたが、リンカやグリンが言うには、ジューロが異世界から来た可能性はあると、言われた事があるのだ。


 未だにピンと来ていないが…。


 この話を聞いたフレッドも、同様に分からないという様子でキョトンとしている。


 しかし、ケンタだけは唯一反応が違っていて。

「だよね?だよねぇ…やっぱりそうだよねぇ…」と、頭を抱えて呟く姿が見えた。


『そう、その異放人だ。そこの三人…ジューロさんとフレッドさん、そしてケンタさんが異放人だな。まぁ、肝心の二人はイマイチ分かっていないようだが、転移者と言えば分かったりするかね?』


「「転移者…?」」

 ジューロとフレッドが同時に首をかしげる。


『あー…いや、異放人と同じ意味の言葉というだけだから考えなくていい。…二人はたぶん古い時代から来た人間なのだろうな。概念的に分からない事が分からないといった所か…うん、なんか懐かしいな、この感じ』

 ジェラードは染々と、何か懐かしむような苦笑いを浮かべた。


 珍妙な空気の中。リンカが話に割って入り、疑問を投げ掛ける。

「あの、ジューロさん達が異放人なのは良いとして───」

(えっ?あっしとしちゃ、良くはねぇんですが…)


「それとは別に聞きたいんですけど、女神様と敵対してる理由って…」

『そうだな、簡単に言ってしまえば、ビアンド建国時からの古い因縁かな?あの女神は国を…いや、世界を食い潰す外来種だ。だから敵対している』


 ジェラードの答えに皆が沈黙し、部屋が静まり返った。

 ジューロが黙ったのは、話の内容がよく分からなかったからだ…。


 他の皆は神妙な顔をして黙っているし、ジューロだけが分かってないのかもしれない。


 誰も口を開かないまま、一時の静寂に包まれる中で、ジューロは思いきって手を上げた。

「はいっ!よござんすか?」


『なんだね?ジューロさん』

「えぇと。話が抽象的すぎて、よく分かんないでござんす」


「…あ、ジューロも?」

 ジューロの言葉を聞いて、グリンが安堵の声を漏らすと、続けてリンカとフレッドも顔をゆるめる。


「あのっ、私もちょっと分かってなくて…。昔なにかがあったんだなって事だけ、なんとなく…?」

「なんだ、皆わかってなかったのか。俺だけ話に置いていかれたかと」


 少しだけ空気が弛み、みんながワイワイざわつき始めると、ジェラードは申し訳なさそうな顔を浮かべた。


『うん…なんか、ゴメンな?フワッフワで伝わらないよなぁーって、私自身も話してて思った』

「あ、いや…。そうなので?」


『すまない。出来るだけ簡潔にまとめようとして、内容がおざなりになってしまった。口だけの説明じゃ、あまり信じて貰えないだろうと、タカを括っていたせいだ』

 ジェラードは頭を下げる。


『だが、それじゃ良くないな…。まず話を聞いて貰って、その上で君たちに判断をゆだねるべきなのだから。…申し訳ないが、改めて話をさせてくれないか?』


「んむ、よござんすよ。判断についちゃ、あっしは自信がありやせんが。リンカさん達は賢いんで、それでなんとか」


「ちょっ、ジューロさんっ!分からない所は教えますけど。判断まで私たちに投げる気じゃないでしょうね?」

「うむ…。え?ダメ?」


「もぉっ、やっぱり!ちゃんと自分で考えて判断しないと!ですからね!」

「が、頑張りやす…」


 ションボリするジューロを見て、ジェラードは『やはり君たちは好ましいね…』と、少し微笑み小声で呟くと。

 オホンと一つ咳き込みをしてから、本題へ移った。


『そうだな…。始まりは初代王ビアンド。彼と異放人たちが出会い、この国を創った所からだ───』


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