第七十三話【異放人たち】
───図書館にある秘密の部屋。
そこへ続く隠し扉をチーネが閉め忘れたせいで、司書のミルフィーと同僚のケンタが部屋に入ってきてしまった。
話し合いの為に呼んだジューロ達とは違い、この2人は完全な部外者で(一人は図書館の司書ではあるが)。一応、無関係の人間だ。
「で、どうするのでござんす?これ…」
ジェラードとシャーリーに尋ねる。
無関係な2人を口封じする…などという話になれば、流石に見過ごす訳にもいかない。
『どうもこうも、完全にこちらの落ち度だからな』
「ですね…。何も見なかった事にしてもらうよう、お二人にお願いするしか…。ミルフィーさんは、ここの司書ですし。なんで図書館にこんな場所があるかの説明…というか弁明が必要でしょうけど」
頭を抱え、うなだれる2人を見てジューロは少し不憫に思った。
と同時に、誰かを害する意思は全くないことに安堵する。
それはそれとして、こんなことになった原因のチーネはというと…。
ジューロが部屋の隅っこへ視線を向けると、そこではチーネが【私は駄猫です】という札を首から下げ、正座をさせられていた。
「本当に…申し訳にゃい…です…」
グリンも残念な人を見る眼差しをチーネに向ける。
「あの、これでよく怪盗とかやってこれましたね?」
『うん、見事に言い返せないな!耳が痛い。チーネとは色々あって、協力して貰っているのだが、今…ちょっとだけ後悔してるとこだ』
チーネはグウの音も出ないようで、二人の会話を聞いてショックを受けるしか出来なかった。
『…けれども、チーネは信頼できる大切な仲間だ。性格に問題はあれど、本当にあれど、これでも本人の資質や能力は優秀なのだ。性格で台無しになっているが』
フォローをしているのかどうか微妙な言い回しだが、言いたいことは分かる。
チーネはせっかちで、正義感が強く、嘘を見抜ける特技がある癖に、嘘をつくのが下手な獣人だ。
性格については置いておくとして、善良なのは間違いないし、そこは信用されているのだろう。
…怪盗として致命的な気がするが、そこは言わないことにした。
「しかし、どうしましょう?いったん帰ってもらいます?」
シャーリーが尋ねると、ジェラードは首を横へ振る。
『…いや、そこにいる彼も異放人のようだし、居てもらおう』
「えっ、彼も?そうなんですか?」
『あぁ、ついでだ。ここで話を聞いて貰った方が、説明する手間も省けていいからね』
ジェラードはケンタを見ながらそう言った。
『よろしいかな?二人のお客人』
ミルフィーとケンタに聞くと、二人は頷く。
『すまないね、ありがとう。出来るだけ手短に話すつもりだが、立ちっぱなしも何だ、二人もどうぞ座ってくれ』
促された二人は、ジューロ達と同じように席につく。
それを見届けると、ジェラードは改めて話を始めた。
『予定外の客人も居るからな、何を話すべきか…というか、そこの二人。ミルフィーさんと言ったっけ?もう一人は…えぇと』
「あ、自分はケンタと言います」
『うむ、ケンタさん。ここでの話は、どこまで聞いていたかね?』
「ええと、女神を倒すとか…危機がどうこうとかいう話は」
『あぁ、そうか…。肝心な話が聞こえてたのなら、遠慮せずに話してしまおう。それに考えてみれば、巻き込むとかの話は、とうに過ぎているからね』
口振りからして、本当は巻き込まないように、二人への話は最低限に留めるつもりだったのかもしれない。
だが、それは諦める判断をしたようだ。
『まずは改めて、私の立場を言っておこう。私は女神の敵対者であり、《異放人》と呼ばれている者だ。一応聞いておくが…、異放人という言葉を聞いたことはあるかね?』
「あ、はいっ!建国の逸話、おとぎ話に出てくるんですけど。こことは違う別の世界の───異世界からの放浪者。それが異放人だって…」
リンカが返すと、司書のミルフィーも馴染みがあるようで頷いている。
ジューロも話は聞いたことがある。
ケンタがここを異世界であると断じ、ジューロの事をご先祖様だと言い出した時の事。
気が触れたかと思っていたが、リンカやグリンが言うには、ジューロが異世界から来た可能性はあると、言われた事があるのだ。
未だにピンと来ていないが…。
この話を聞いたフレッドも、同様に分からないという様子でキョトンとしている。
しかし、ケンタだけは唯一反応が違っていて。
「だよね?だよねぇ…やっぱりそうだよねぇ…」と、頭を抱えて呟く姿が見えた。
『そう、その異放人だ。そこの三人…ジューロさんとフレッドさん、そしてケンタさんが異放人だな。まぁ、肝心の二人はイマイチ分かっていないようだが、転移者と言えば分かったりするかね?』
「「転移者…?」」
ジューロとフレッドが同時に首をかしげる。
『あー…いや、異放人と同じ意味の言葉というだけだから考えなくていい。…二人はたぶん古い時代から来た人間なのだろうな。概念的に分からない事が分からないといった所か…うん、なんか懐かしいな、この感じ』
ジェラードは染々と、何か懐かしむような苦笑いを浮かべた。
珍妙な空気の中。リンカが話に割って入り、疑問を投げ掛ける。
「あの、ジューロさん達が異放人なのは良いとして───」
(えっ?あっしとしちゃ、良くはねぇんですが…)
「それとは別に聞きたいんですけど、女神様と敵対してる理由って…」
『そうだな、簡単に言ってしまえば、ビアンド建国時からの古い因縁かな?あの女神は国を…いや、世界を食い潰す外来種だ。だから敵対している』
ジェラードの答えに皆が沈黙し、部屋が静まり返った。
ジューロが黙ったのは、話の内容がよく分からなかったからだ…。
他の皆は神妙な顔をして黙っているし、ジューロだけが分かってないのかもしれない。
誰も口を開かないまま、一時の静寂に包まれる中で、ジューロは思いきって手を上げた。
「はいっ!よござんすか?」
『なんだね?ジューロさん』
「えぇと。話が抽象的すぎて、よく分かんないでござんす」
「…あ、ジューロも?」
ジューロの言葉を聞いて、グリンが安堵の声を漏らすと、続けてリンカとフレッドも顔をゆるめる。
「あのっ、私もちょっと分かってなくて…。昔なにかがあったんだなって事だけ、なんとなく…?」
「なんだ、皆わかってなかったのか。俺だけ話に置いていかれたかと」
少しだけ空気が弛み、みんながワイワイざわつき始めると、ジェラードは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
『うん…なんか、ゴメンな?フワッフワで伝わらないよなぁーって、私自身も話してて思った』
「あ、いや…。そうなので?」
『すまない。出来るだけ簡潔にまとめようとして、内容がおざなりになってしまった。口だけの説明じゃ、あまり信じて貰えないだろうと、タカを括っていたせいだ』
ジェラードは頭を下げる。
『だが、それじゃ良くないな…。まず話を聞いて貰って、その上で君たちに判断をゆだねるべきなのだから。…申し訳ないが、改めて話をさせてくれないか?』
「んむ、よござんすよ。判断についちゃ、あっしは自信がありやせんが。リンカさん達は賢いんで、それでなんとか」
「ちょっ、ジューロさんっ!分からない所は教えますけど。判断まで私たちに投げる気じゃないでしょうね?」
「うむ…。え?ダメ?」
「もぉっ、やっぱり!ちゃんと自分で考えて判断しないと!ですからね!」
「が、頑張りやす…」
ションボリするジューロを見て、ジェラードは『やはり君たちは好ましいね…』と、少し微笑み小声で呟くと。
オホンと一つ咳き込みをしてから、本題へ移った。
『そうだな…。始まりは初代王ビアンド。彼と異放人たちが出会い、この国を創った所からだ───』




