徒然草 舞夢訳

第二百二十七段 六時礼賛は

（原文）

六時礼賛は、法然上人の弟子、安楽といひける僧、経文を集めて造りて、勤めにしけり。その後、太秦善観房といふ僧、節博士を定めて、声明になせり。一念の念仏の最初なり。後嵯峨院の御代より始まれり。法事讃も、同じく善観房始めたるなり。

※六時礼賛：浄土宗で、晨朝・日中・日没・初夜・中夜・後夜の六時に阿弥陀仏を礼賛して唱える偈頌。

※安楽：法然の弟子。美貌・美声で知られ女性信者を多く集めた。後鳥羽院の寵愛していた松虫姫と鈴虫姫が安楽の影響で出家。後鳥羽院は激怒し、安楽は六条河原で処刑される。監督不足の責任を問われ法然は讃岐に、親鸞は越後に流罪となった。（建永の法難）

※太秦善観房：伝未詳。京都市右京区太秦の広隆寺の僧らしい。

※節博士：声明・平曲などの詞の横に書かれた符号。節の長短・高低などをあらわす。

※御嵯峨院の御代：院政まで含めて、1242～1272の期間。

※法事讃：『浄土法事讃』。唐の善導大師の『転経典行道願往生浄土法事讃』の略。浄土宗で法事に用いられる。

（舞夢訳）

六時礼賛は、法然上人の弟子の安楽という僧侶が、経典の文句を集めて作り、それを勤行に用いたものである。

その後、太秦善観房という僧侶が、節博士を定めて声明にした。

これが「一念の念仏」の起源である。

御嵯峨院の御代から始まった。

法事賛も、同じく善観房が始めたものである。

「六時礼賛」と「法事賛」の起源を記したもの。

兼好氏は特に自身の感想などを述べずに、機械的に記している。

仏道を勉強途中のメモ書きのようなもの。