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第百八十八段 ある者、子を法師になして(3)

(原文)

例へば、碁をうつ人、一手もいたづらにせず、人に先だちて、小を捨て大につくがごとし。

それにとりて、三つの石を捨てて、十の石につくことは易し。

十を捨てて、十一につく事は難し。

一つなりともまさらん方へこそつくべきを、十まで成りぬれば、惜しく覚えて、多くまさらぬ石には換へにくし。

これをも捨てず、かれをも取らんと思ふ心に、かれをも得ず、これをも失ふべき道なり。


(舞夢訳)

例えば、碁を打つ人が、一手も無駄に打たず、相手の先手を打ち、どうでもいい石は見捨てて、重要な石を取ろうとするようなものである。

三つの石を捨てて、十の石を取るのは、簡単である。

しかし、十の石を捨てて、十一の石を取ることは、難しい。

一つでも利が多い作戦を取るべきであったとしても、捨てるべき石が十になると惜しく思って、それほど多くない石には換えにくい。

これも捨てずに、あれも取ろうと思う心理のために、あれを得ることが出来ずに、これも失ってしまうのは、当然の結果となる。


どうでもいい損失を惜しみ、結局、本当に欲しい利益を得ることが出来ない。

あれやこれやと欲しがり過ぎて、結局どれも得ることが出来ない。

碁打ちの話になるけれど、どこか人生に通じるものがある。


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