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第百八十八段 ある者、子を法師になして(2)

(原文)

この法師のみにもあらず、世間の人、なべてこの事あり。

若き程は、諸事につけて、身を立て、大きなる道をも成じ、能をもつき、学問をもせんと、行末久しくあらます事ども心にはかけながら、世をのどかに思ひてうち怠りつつ、まづ、さしあたりたる目の前の事にのみまぎれて月日を送れば、事々成す事なくして、身は老いぬ。

終に物の上手にもならず、思ひしやうに身をも持たず、悔ゆれども取り返さるる齢ならねば、走りて坂を下る輪のごとくに衰へゆく。

されば、一生のうち、むねとあらまほしからん事の中に、いづれかまさるとよく思ひくらべて、第一の事を案じ定めて、その外は思ひ捨てて、一事をはげむべし。

一日の中、一時の中にも、あまたのことの来たらんなかに、少しも益のまさらん事をいとなみて、その外をばうち捨てて、大事を急ぐべきなり。

何方をも捨てじと心にとり持ちては、一事も成るべからず。


(舞夢訳)

この法師だけに限ったことではなく、世間一般の人に共通して、このことがある。

若い時代は、いろいろなことにつけて、立身出世したい、大事業を達成したい、芸能へ習熟したい、学問も究めたいなどと思い、遠大な計画を心中抱きながらも、結局は人生をのん気に送ってしまい怠けているうちに、まずは目の前の雑事だけをするようになり、そのまま月日を送り、様々達成することもなく、年老いてしまうのである。

とうとう、一芸に秀でることもなく、思い願っていたような大成もなく、後悔しても取り返すことができる年齢ではなくなり、後は坂を下る車輪のように、あっと言う間に年老いていく。

それを考えれば、自分の一生のうち、自分にとって大切なことは何かと、しっかりと思い比べて、一番自分に適したことを思い定めて、それ以外は諦めて、一つの事に励むべきである。

一日を過ごしていると、ひと時の間にも、様々な用事が発生してくるけれど、その中でも少しでも有益であることに費やして、それ以外は捨ててしまい、重要なことを急ぐべきである。

どれもこれも捨てないと、執着してしまうと、結局は一つの事も、成就するはずがない。



これも、兼好氏の言う通り、誰でも実感できることと思う。

人間の力は有限なので、あれやこれやと手を出してみても、結局はどれも不完全なものとなる。

やはり、若い時に、自分の適性にあう「一事」をわきまえて、それに出来る限りのエネルギーを注ぐことが、大切。


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