第百八十三段 人觝く牛をば角を截り
(原文)
人觝く牛をば角を截り、人喰ふ馬をば耳を截りて、その幖とす。
幖をつけずして人を傷らせぬるは、主のとがなり。
人喰ふ犬をば養ひ飼ふべからず。
これ皆、とがあり。
律の禁なり。
(舞夢訳)
人を突く牛はその角を切り、人にかみつく馬はその耳を切り、その目印とする。
目印をつけずに、他人に怪我を負わせるのは、その飼い主の罪となる。
人間にかみつく犬を養い飼ってはならない。
これらは、全て罪となる。
律の禁じるところである。
律令制に由来する養老律令から書いている。
現代であれば、飼い主の責任は当然、殺処分もある。
兼好氏の時代に、どこまで養老律令が有効であったのかは不明。
ただ、罰を負わされる動物にとっては殺処分されないだけでも、ましなのかもしれない。
尚、余談になるけれど、江戸期の「生類憐みの令」は、この発想と異なる。
「蚊を叩いて殺して血が出たら流罪」
「台所の井戸に猫が落ちたのに気づかなくて八丈島流罪」
「自分の子の病気を治す薬として燕を殺した親が小塚原で断罪」
御三家でさえも、下記により、誓紙を書かされている。
尾張徳川家は「門前の犬の喧嘩」。
紀伊徳川家は「火事場の死犬紛失」。
水戸徳川家は「屋敷前に落ちていた死鴨一羽」。




