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第百七十六段 黒戸は、小松御門位につかせ

(原文)

黒戸は、小松御門位につかせ給ひて、昔ただ人におはしましし時、まさな事せさせ給ひしを忘れ給はで、常にいとなませ給ひける間なり。

御薪にすすけたれば、黒戸といふとぞ。


※黒戸:黒戸の御所。宮中、清涼殿の北廂から弘徽殿に通じる廊で、細長い部屋。その中間の西向きに黒戸がある。

※小松御門:第58代光孝天皇。元慶8年(884)即位、御歳55歳。学問風流を愛するおだやかな人柄は人々から慕われた。

※まさな事:戯れ事。炊飯、調理など皇族としてするべきでない事をしたらしい。


(舞夢訳)

黒戸の御所は、小松の帝が御即位なされても、かつて臣下であられた時に料理等の戯れ事をなされていたのをお忘れにならず、常にそこで以前と同じことをなされていた場所である。

御薪の煙ですすけて黒ずんでしまっていたので、黒戸というそうである。


先代陽成天皇が素行に問題ありとされたため廃され、老齢55歳で関白藤原基経により即位させられた。

尚、その時点で極めて貧しく、借用された物の返済を求めて、町衆が参内して攻め立て申したという説話がある。

即位後も、つつましい生活を忘れなかった。

また、学問風流を愛するおだやかな人柄は人々から慕われた。

百人一首に「君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪はふりつつ」が採られている。

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