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第百七十五段 世には心得ぬ事の多きなり(3)

(原文)

あるはまた、我が身いみじき事ども、かたはらいたく言ひきかせ、あるは酔ひ泣きし、下ざまの人は、罵りあひ、いさかひて、あさましくおそろし。

恥ぢがましく、心憂き事のみありて、はては許さぬ物どもおし取りて、縁より落ち、馬・車より落ちて、あやまちしつ。

物にも乗らぬきはは、大路をよろぼひ行きて、築土・門の下などに向きて、えもいはぬ事どもしちらし、年老い、袈裟かけたる法師の、小童の肩を押さえて、聞えぬ事ども言ひつつ、よろめきたる、いとかはゆし。


(舞夢訳)

あるいはまた、自慢話を呆れるほど言い聞かせ、ある者は酔い泣きし、程度が低い者は罵り合って喧嘩をするなど、あさましく恐ろしい。

恥ずかしく不愉快な事ばかりをして、その末には、手にしてはならない物を無理やりに取って、縁側から落ちてみたり、馬や車から落ちて、怪我をしてしまう。

乗り物にも乗れない身分の者は、大路をふらふらと歩き、築地や門の下に向かって、口にはできないような汚らしいことをやり散らし、老境に至り袈裟をかけた法師が、お供の少年の肩を押さえて、聞くに堪えない言葉を言いながらよろめいて歩くのは、実に目も当てられないものである。


自慢酒、泣き酒、絡み酒、喧嘩酒などは宴会時で、それ以降は帰途の状態。

いずれにせよ、酒に呑まれて常軌を逸した人々の、恥ずかしい姿を描写する。

確かにあさましく見たくない人々である。

酒を上手に飲めない人は、いつの時代でも多くいる。

その迷惑をこうむる人も、残念ながらなくならない。

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