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第百七十一段 貝をおほふ人の(1)

(原文)

貝をおほふ人の、我がまへなるをばおきて、よそを見わたして、人の袖のかげ、膝の下まで目をくばる間に、前なるをば人におほはれぬ。

よくおほふ人は、よそまでわりなく取るとは見えずして、近きばかりおほふやうなれど、多くおほふなり。

碁盤のすみに石をたてて弾くに、向ひなる石をまぼりて弾くは、当たらず。

我が手もとをよく見て、ここなる聖目を直ぐに弾けば、立てたる石必ずあたる。


※貝おほい:貝合。蛤貝を覆い合わせて勝負する遊び。蛤の二つの殻を合わせる。貝の総数は三百六十。中世、特に上流女性の間で流行。遊び方は未詳。


(舞夢訳)

貝おおいの遊びをする人は、自分の前にある貝をそのままにして、違う場所を見渡して、例えば人の袖の陰や膝の下に目を配っている間に、自分の前の貝を他人におおわれてしまうことがある。

上手におおう人は、無理やりによその場所の貝を取るようには見えない。

近い場所からおおうようであるけれど、最終的には数多く、おおうのである。

また、碁盤の隅に石を立てて弾く場合で、向かい側の石をめがけて弾くやり方は、当たらない。

自分の手もとをしっかりと見て、その前の聖目を真っ直ぐに弾けば、立てた石に必ず当たる。



兼好氏の遊戯論。

類推すれば、「灯台もと暗し」の結論らしい。

碁盤の石遊びは、正式な囲碁ではなく、戯れに石を弾く遊び。


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