徒然草 舞夢訳

第百六十四段 世の人あひ会ふ時

（原文）

世の人あひ会ふ時、暫くも黙止する事なし。

必ず言葉あり

その事を聞くに、多くは無益の談なり。

世間の浮説、人の是非、自他のために失多く、得少なし。

これを語る時、互ひの心に無益の事なりといふ事を知らず。

（舞夢訳）

世間の人は、互いに顔を合わせると、少しの間も黙っていることがない。

必ず、何かを言っている。

その内容を聞いていると、ほとんど、無益の話である。

世間に飛び交ういいかげんな話、他人の良し悪しを言い合うなど、互いに損になることが多くて、特になることは少ない。

そして、このような類の話をしている時は、お互いにとって、無益であるなど全くわかっていない。

こういう人たちは、現代でもよく見かける。

先日も新幹線で近くの席に座った中年女性三人が、東京から新大阪まで、関西弁にて、しゃべり続けていたけれど、まさに、兼好氏の文通りだった。