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第百五十五段 世に従はん人は(2)
(原文)
春暮れて後、夏になり、夏果てて、秋の来るにはあらず。
春はやがて夏の気をもよほし、夏より既に秋はかよひ、秋はすなはち寒くなり、十月は小春の天気、草も青くなり梅もつぼみぬ。
木の葉の落つるも、先づ落ちて芽ぐむにはあらず
下よりきざしつはるに堪えずして落ちるなり。
迎ふる気、下に設けたる故に、待ちつるついで甚だはやし。
(舞夢訳)
春が暮れて夏にな、夏が終わって秋が来るのではない。
春は少しずつ夏の気配を取り込み、夏の間から秋の雰囲気は漂い始める。
秋になれば、たちまち寒くなり、10月には小春の陽気となり、草は青くなり、梅もつぼみ始める。
木の葉が落ちたとしても、先に葉が落ちて、そこから芽ぐむのではない。
新芽が下から出てきて、その力に耐えきれなくて、木の葉は落ちるのである。
そのような変化を迎える生気を、その内部に抱えているので、待ち受ける手順はたいへんに速い。
四季は、区切りがあって変わるのではなく、次第に次の季節を取り込みながら、変わっていく。
これも、万物が移り変わる無常の流れであり、摂理なのだと思う。




