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第百三十一段 貧しき者は財をもて礼とし

(原文)

貧しき者は財をもて礼とし、老いたる者は力をもて礼とす。

おのれが分を知りて、及ばざる時は速やかにやむを智といふべし。

許さざらんは、人の誤りなり。

分を知らずして強ひて励むは、おのれが誤りなり。

貧しくして分を知らざれば盗み、力衰へて分を知らざれば病を受く。


(舞夢)

貧しい者が財貨を他人に贈ることを礼儀とし、年老いた者がその体力を貸すことを礼儀とする。

それについて言うならば、自らの力量をわきまえ、力量が不足する場合には、速やかにやめるのを、知恵と言うべきである。

それを、許さないと言うならば、許さない人が考え違いをしていることになる。

また、自らの力量をわきまえず、無理やり励むことは、その人自身の考え違いである。

それは、貧しい者がその力量をわきまえなければ盗みに走るし、体力が衰えた人が力量をわきまえなければ病気を招くことになるからである。



※貧しき者は財をもて礼とし~:「貧者不以貨財為礼、老者不以筋力為礼」(貧者は貨財を以て礼となさず、老者は筋力を以て礼となさず」(礼記・曲礼上)をふまえる。


礼記で説かれているのは、分を越えた努力を戒めるものになるけれど、兼好氏は恣意的に、礼記本文の「不」の部分を削除して、おそらく兼好氏の時代で行われた風潮を批判している。


金がないのに無理して人に貢ぎ、年老いて体力もないのに力仕事を手伝おうとする。

その背景にあるのは、根拠のない虚栄心。

その虚栄心を満たすために、盗人になり、病気を招いてしまい、結局は愚かで哀れな結末となる。


いずれにせよ、「弱い犬程よく吠える」。

根拠のない虚栄心や強がりは、弱者特有のもの。

最近の近隣諸国にも見られるし、日本とて先の大戦において悲惨極まりない結果を被った。


「虚栄心と感情に頼り、適切な準備をせず軍を進めることは、危険極まりなく、国家の破滅にもつながる」

古代ローマの格言を思い出した。


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