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第百二十九段 顔回は、志、人に労を施さじ(2)

(原文)

おとなしき人の、喜び、怒り、悲しび、楽しだも、皆虚妄なれども、誰か実有の相に著せざる。

身をやぶるよりも、心を傷ましむるは、人を害ふ事なほ甚だし。

病を受くる事も、多くは心より受く。

外より来る病は少なし。

薬を飲みて汗を求むるには、しるしなきことあれども、一旦恥ぢ恐るることあれば、必ず汗を流すは、心のしわざなりといふことを知るべし。

凌雲の額を書きて、白頭の人となりしためしなきにあらず。


(舞夢訳)

大人における喜怒哀楽は、そもそもが皆、実在のない幻想のようなものであるけれど、誰もがそれを実在のものとして錯覚する「実有」の姿として、執着する。

そして、身体を傷つけるよりも、実は心を傷つけるほうが、人を害することが、甚だしい。

人が病気になるのは、多くは精神的な不調が原因である。

外部的な原因による病気は、少ない。

薬を飲んで汗を出そうとしても、ほぼ効果がないこともあるけれど、一旦恥じいるような事態や怖れるような事態が発生すれば、必ず汗をかいてしまうのは、その心のしわざであることを知るべきである。

凌雲観の額を書き、その怖ろしさゆえ、白髪になってしまった例もあるのだ。


※実有:仏語。全ての物は虚像であるが、実在しているかのように錯覚すること。

※凌雲の額を書きて、白頭の人となり:中国魏の能書家韋誕が、凌雲観という高楼の額を書くため、台に乗せられ、25丈(75メートル)の高さまで吊り上げられた。その結果、恐怖で髪の毛が真っ白になったという故事。



心の傷は、治そうと思っても、なかなか治らない。

そして、いつまでも、その人を苦しめ続ける。

一時的に他人に痛みを緩和されることはあっても、あくまでも一時的なもの。

自分がその痛みを忘れてしまわない限り、一生、心を傷つけ続ける。


では、痛みを忘れる、緩和するには、どうすればいいのか。

様々な解決法がある。


忘れるしかないような、一心に取り組まなければならないような対象に打ち込むこと。

旅に出て、ウミを落とすこと。

別世界で、新しく再出発すること。


様々あるけれど、やってみなければ、わからない。


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