表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/338

第百二十八段 雅房大納言は、才賢く(1)

(原文)

雅房大納言は、才賢く、よき人にて、大将にもなさばやとおぼしけるころ、院の近習なる人、「ただ今、あさましき事を見侍りつ」と申されければ、「何事ぞ」と問はせ給ひけるに、「雅房卿、鷹に飼はんとて、生きたる犬の足を斬り侍りつるを、中檣なかがきの穴より見侍りつ」と申されけるに、うとましく、憎くおぼしめして、日ごろの御気色もたがひ、昇進もし給はざりけり。

さばかりの人、鷹を持たれたりけるは思はずなれど、犬の足は跡なき事なり。

虚言は不便なれども、かかる事を聞かせ給ひて、憎ませ給ひける君の御心は、いと尊き事なり。


(舞夢訳)

雅房大納言は学識が深く、立派な人物であるということで、院は大将に任じようと考えておられたおり、院の近習が「たった今、ひどく無残な事を見かけました」と申されたので、院が「それは何事か」とお聞きになると、近習は「雅房卿は鷹に食べさせようとして、生きた犬の足を斬っておりましたのを、垣根の穴から見てしまったのです」と申し上げた。

院は、それを聞き、大納言をうとましく、憎く思われ、日頃のご機嫌を損して、結果として大納言の昇進も取りやめとなった。

雅房大納言ほどの人が、鷹を飼うなど意外であったけれど、犬の足についての話は根拠に欠けることであった。

そのような嘘により、昇進が取りやめとなったことは残念ではあるけれど、このような話を聞き、雅房大納言をお憎みになられた院の御心そのものについては、実に尊いことである。



※雅房大納言:土御門雅房(1262~1302)。村上源氏。

※院:雅房の大納言在任中は、亀山、後宇多、伏見、後伏見の院が在世のため、特定されていない、従って虚言をした近習も未詳。

※大将:近衛府の長官。左右に各一人。名門の子弟を任ずる。


よほど院の近習に憎まれていたのか、嘘を言われての昇進取消は、実に可哀そうなことと思う。

ただ、兼好氏はそれほど、嘘を言った近習を責めず、院の殺生をする人を嫌う院の心を褒める。


後代の読者からすると、確かに無益な殺生は良くないと思うのは、同意する。

ただ、簡単に近習の意見を信じてしまう、院の人を疑わない「ボンボンぶり」も、実に気にかかるところである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ