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第百十二段 明日は遠き国に赴くべしと(2)

(原文)

人間の儀式、いづれの事か去り難からぬ。

世俗の黙しがたきに随ひて、これを必ずとせば、願ひも多く、身も苦しく、心の暇もなく、一生は雑事の小節にさへられて、空しく暮れなん。

日暮れみち遠し。

吾が生既に蹉駝たり。

諸縁を放下すべき時なり。

信をも守らじ。

礼儀をも思はじ。

この心をも得ざらん人は、物狂ひとも言へ、うつつなし、情なしとも思へ。

毀るとも苦しまじ。

誉むとも聞き入れじ。


(舞夢訳)

人間の俗世間のお付き合いは、どれをとっても、避けがたいことである。

見過ごすことのできない俗世間のお付き合いに従って、それを必ずしなければならないと考えていると、やりたい事も多く、身体は不自由、心は切羽詰まり、その一生は細々とした雑事に遮られて、空しく暮れててしまうのだと思う。

日は暮れるけれど、目的地までの道は遠い。

そして、自分の人生など、挫折の中に終わってしまう。

全ての縁を捨て去る時期である。

信義などは、もはや守らない。

礼儀などは、考えもしない。

この気持ちに対して理解できない人は、狂人と言うのなら、そう言えばいい。

正気ではない、人情がないとも、思えばいい。

非難されても気に病むこともない。

誉められたとしても、聞くこともない。



兼好氏が、自分自身に指示したような「遁世人の心がけ」なのだと思う。

俗世間を捨てたなら、それを徹底すべき、中途半端な心や態度ではならない。


兼好氏自身、知己が多い京都に住み、全く他人と無干渉は貫けなかったのではないか、と思う。

ただ、少しでも、やむなくお付き合いをすれば、必ず世事はつきまとってくる。

「理想と現実のギャップ」に苦しみ、こんな「心がけ」を自分に指示したのではないかと思う。

気楽にできる範囲でお付き合いぐらいすればいいのにと思うけれど、それを厳しい言葉で自分自身に「断て」と指示をする。

その意味で、遁世人には、遁世人なりの、苦しさがあるようだ。

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