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第百七段 女の物言ひかけたる返事(3)

(原文)

かく人に恥ぢらるる女、如何ばかりいみじきもねのぞと思ふに、女の性は皆ひがめり。

人我の相深く、貪欲甚だしく、物の理を知らず、ただ、迷ひの方に心もはやく移り、詞も巧みに、苦しからぬ事をも問ふ時は言はず、用意あるかと見れば、また、あさましき事まで、問はず語りに言ひ出す。

深くたばかり飾れる事は、男の知恵にもまさりたるかと思へば、その事、あとよりあらはるるを知らず。

すなほならずして拙きものは女なり。

その心に随ひてよく思はれん事は、心憂かるべし。

されば、何かは女の恥づかしからん。

もし賢女あらば、それもものうとく、すさまじかりなん。

ただ迷ひを主として、かれに随ふ時、やさしくも、おもしろくも覚ゆべき事なり。


(舞夢訳)

このように、人に気を使わせる女性とは、実際にどれほどに立派であるのかと思うと、女性の本性は、皆、問題がある。

我がままが強く、欲望はすさまじく、物事の道理を理解せず、ただ心はふらふらと迷い歩き、口は達者であるけれど、そのくせ、人から問われた時には、どうでもいい事でも、答えない。

また、つつましく黙っているかと思うと、突然にとんでもない事まで、聞かれもしないのにしゃべり出す。

深くいろいろ考えて、その身を飾るなど、男性の知恵よりも勝っているのかと思うけれど、その自分の本心がすぐに発覚してしまうことに気づかない。

素直ではなくて、問題が多いのが、女性というものだ。

そのような女性の心理につき合って好感を得ようなどという考えは、実に情けないと思う。

それを考えれば、何故に女性の視線を気にする必要があるのだろうか。

ただ、そのようではない賢女という女性であったとしても、それも親しみにくく、興ざめなのだと思う。

それでも、心の迷いにだけ、その身を任せて女性と付き合う場合は、それは優雅で魅力も感じられるはずである。



兼好氏の女性論の総括となるけれど、こんな女性論を現代で発表したら、即「女性の敵」、「女性蔑視」と言われて、袋叩きになると思う。

ただ、これが書かれた兼好氏の時代では、女性に対する否定的見解が多かったのかもしれない。

当時の教養人が学ぶべき仏典・漢籍にも、そのような女性に対する否定的見解が少なからずあるようだ。


そして思い出したことがある。

勤務先同僚女子が、他の女子社員の陰口を言っていた内容と、ほぼ同じであること。

「これはまずいな」と訳しながら、「そう言えば」と思い出し、少々不思議さを感じることになった。


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