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第百七段 女の物言ひかける返事(1)

(原文)

女の物言ひかけたる返事、とりあへずよきほどにする男は、ありがたきものぞとて、亀山院の御時、しれたる女房ども、若き男達の参らるる毎に、「郭公や聞き給へる」と問ひて、ここみられけるに、何がしの大納言とかやは、「数ならぬ身は、え聞き候はず」と答へられけり。

堀川内大臣殿は、「岩倉にて聞きて候ひしやらん」と仰せられたりけるを、「これは難なし。数ならぬ身、むつかし」など定めあはれけり。


(舞夢訳)

女性から、何か言葉をかけられた時の返事を、すんなりと、しかも上手にできる男性は、ほとんどいない。

亀山院の御代に、軽薄な女房たちが、若い男性たちが参内するごとに、

「今年は、ホトトギスの鳴き声をお聞きになりましたか」と尋ね、若い男性たちの感性を試したことがあった。

それに対して某大納言は、

「わたしなど、たいした身分でもないので、まだ聞いておりません」

と、お答えになられた。

また、堀川内大臣殿は、

「岩倉で鳴き声を聞いたような気がします」

とおっしゃられた。

女房たちは、

「堀川内大臣の答えのほうが、問題がない。たいした身分ではないなどの答えは、気に入らない」

と、評価をしあったとのことである。



※亀山院:第90代天皇。在位正元元年(1259)11月から文永11年(1274)1月。

※岩倉:京都市左京区岩倉町。山里にして、堀川家の山荘があった。

※数ならぬ身:古歌から引いている。

「音せぬは待つ人からか郭公たれ教へけむ数ならぬ身を」『続古今集』源俊頼)「数ならぬ身には習はぬ初音とて聞きてもたどる郭公かな」『拾遺愚草』藤原為家)

ホトトギスは夏を代表する風物の一つ。

その初音を他人にさきがけて聞くのは、王朝時代の人々のプライドだった。

確かに堀川内大臣の返事は、全く無難なもの。

しかし、某大納言の返事も、実は古歌を引き、教養にあふれたもの。

からかい好きだけれど、実は軽薄にして、古歌の知識などない女房たちだったのだろう。

某大納言は、その女房たちの軽薄さを知っていて、仲良くなる気分にはならず、故意にそんな答えをしたのかもしれない。


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