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第百四段 荒れたる宿の(3)

(原文)

さて、このほどの事どもも、こまやかに聞え給ふに、夜深き鳥も鳴きぬ。

来しかた行末かけて、まめやかなる御物語に、このたびは鳥もはなやかなる声にうちしきれば、明けはなるるにやと聞え給へど、夜深く急ぐべき所のさまにもあらねば、少したゆみ給へるに、隙白くなれば、忘れがたき事など言ひて、立ち出で給ふに、梢も庭もめづらしく青みわたりたる卯月ばかりのあけぼの、艶にをかしかりしを思し出でて、桂の木の大きなるが隠るるまで、今も見送り給ふとぞ。


(舞夢訳)

そして、最近の様子を一つ一つ細やかに情を込めてお話になっていると、まだ暗い中を一番鶏が鳴く。

今までのこと、これからのことを、また情を込めて語り合われていると、今夜は鶏がひときわ元気に鳴き騒ぐので、そろそろ夜が明けるのだろうと、耳をおすましになる。

しかし、まだ夜は深く、急いで帰らなければならないような場所柄ではないので、少々ゆったりとくつろいでおられる。

それでも、戸の隙間から白みがさして来てしまった。

しかたないので、女性への想いは忘れないと言葉をかけ、そのお方はお立ちになられた。

外に出ると、梢も庭も目が覚めるほど新鮮に、青々と見渡される四月のあけぼのの気色。

そのお方は、この家の前を車でお通りになるたびに、家の目印の桂の大木が見えなくなるまで、今も見続けておられるとのことである。



なかなか、予想が難しい男女の関係である。

一夜を過ごした後、女性と別れてしまったのか、女性が亡くなってしまったのか。

最後の文だけが、それまでの展開と様子が異なる。

ただ単に寄る時間がなくて通り過ぎたとは、考えづらい。


いずれにせよ、情深き一夜が、その人の心を強くとらえ続けていたとは、言えるけれど。

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