第九十二段 ある人、弓射る事を習ふに(2)
(原文)
道を学する人、夕には朝あらん事を思ひ、朝には夕あらんことを思ひて、かさねてねんごろに修せんことを期す。
いわんや一刹那のうちにおいて、懈怠の心ある事を知らんや。
なんぞ、ただ今の一念において、直ちにする事の甚だ難き。
(舞夢訳)
仏道を学ぶ人は、夕方には翌朝を思い、その朝には夕方を思い、その時にはあらためてしっかりと修行をしようと考えるものである。
このような人は、ましてたちまちのうちに心に生じる油断を意識するだろうか。
その事を思い立った時点で、すぐに取り組むということは、実に難しいことなのである。
仏道修行をしている人でも、真剣に取り組むのが、ついつい後回しになる。
夕方になれば明日の朝に、その朝になれば今日の夕方に、と考える。
そんな人は、そう思った時点で、心にたちまち油断が生じていることに気がつかない。
今やるべきことを、様々理由を考えて、ついつい後回しにしてしまう。
そして簡単なことでも、なかなか片付かない。
それは仏道を学ぶ人でも、弓などの諸芸を学ぶ人でも同じ。
受験期に勉強をしようと思いながらも、「ちょっとだけ1時間、あとで起きてから」と思って、ベッドにゴロリ寝てしまう。
目覚めれば朝、鏡には真っ青な自分の顔。
そんな何度もあったことを思い出した。




