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第八十七段 下部に酒飲ます事は(2)

(原文)

この男具覚坊にあひて、「御房は口惜しき事し給ひつるものかな。おのれ酔ひたる事侍らず。高名仕らんとするを、抜ける太刀むなしくなく給ひつること」と怒りて、ひた斬りに斬りおとしつ。さて、「山賊あり」とののしりければ、里人おこりて出であへば、「我こそ山賊よ」と言ひて、走りかかりつつ斬りまはりけるを、あまたして手負ほせ、打ち伏せてしばりけり。馬は血つきて、宇治大路の家に走り入りたり。

あさましくて、をのこどもあまた走らかしたれば、具覚房は、くちなし原にによひ伏したるを、求め出でてかきもて来つ。からき命生きたれど、腰斬り損ぜられて、かたはに成りにけり。


(舞夢訳)

この口取りの男は、

「お坊様は、何とも残念なことをなされたのか、私は酔ってなどはいない。せっかく手柄を立てて名を上げようと思ったのに、抜いた刀を無駄にしてしまった」

と怒ってしまい、具覚坊をさんざんに斬りつけ、馬から落としてしまった。

そのうえで、「山賊が出た」と大騒ぎしたので、木幡の里人が大挙して駆けつけたところ、口取りの男は、「この俺が山賊だ」と言い放ち、走り回って太刀を振り回したので。木幡の里人が全員で口取りの男を責め、打倒して縛り上げてしまった。

さて、馬は、乗り手である具覚坊の血をつけて、宇治大路に面した飼主の屋敷に走り込んだ。

主が驚き、下男たちを大ぜい、走らせたところ、具覚坊がくちなしの群生する野原で、うめき声をあげながら横たわっているのを見つけ、家までかついで戻った。

具覚坊は、なんとか命までは失わなかったけれど、腰を着られ損傷を負ったことにより、不具者となってしまった。



酒であろうと、昨今の禁止薬物であろうと、正気を失ってしまった人間は、実に危険で迷惑千万である。

しかし、「良かれ」と思って、酒乱の口取りの男に酒を飲ませてしまった具覚坊の「人の良さ」が、とんでもない結果を招いてしまった。

人は悪気はなくても、不幸に遭遇することもある。

せめて、馬が飼主の屋敷に戻り、その結果、一命をとりとめることになっただけでも、仏恩なのだろうか。

そのまま死んでいれば、まさに情けない限りなのだから。

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