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第七十六段 世の覚え花やかなるあたりに
(原文)
世の覚え花やかなるあたりに、嘆きも喜びもありて、人多く行き訪ふ中に、聖法師のまじりて、言ひ入れたたずみたるこそ、さらずともと見ゆれ。
さるべき故ありとも、法師は人にうとくてありなん。
(舞夢訳)
世間の名誉が高く華やかな暮らしをしている人の屋敷に、悲しいこととか、喜ばしいことなどがあって、多くの人がごった返してている中に、聖法師まで入り込み、取次を願い順番を待っている様子を見ると、そんなことをしなくてもいいのに、と思う。
相当な理由があったにせよ、法師は世間の人とは、一線を隔すべきではないだろうか。
世俗とは縁を切り、仏道を極める決意をした聖法師が、何の目的があって華やかな世俗のお金持ちで忙しそうな人に、何の目的で会いに行くのだろうか。
少しは、暇な自分より先に、忙しい世俗の人に気を使うべきなのではないか。
法師は世俗に人と同じような行動は慎むべきではないか。
法師に「会ってはいけない」という理由もないけれど、時期をわきまえたらどうかという意味かもしれない。




