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第七十三段 世に語り伝ふる事(3)

(原文)

とにもかくにも、そらごと多き世なり。

ただ、常にある、めづらしからぬ事のままに心得たらん、よろづ違ふべからず。

下ざまの人の物語は、耳おどろく事のみあり。

よき人は怪しき事を語らず。

かくはいへど、仏神の奇特、権者の伝記、さのみ信ぜざるべきにもあらず。

これは、世俗の虚言をねんごろに信じたるもをこがましく、「よもあらじ」など言ふも詮なければ、大方はまことしくあひしらひて、偏に信ぜず、また疑ひ嘲るべからず


(舞夢訳)

とにかく、嘘が多い世の中である。

ただ、そんな世間が普通であって、珍しくはないと受け取っておけば、万事間違いはない。

程度の低い人の話は、えてして驚かされる事ばかりである。

立派な人は、そんな怪しい話はしないものである。

そうは言っても、仏や神の奇跡話や、聖者や高僧の伝記については、それほど疑ってかかるべきではないと思う。

その類の話に含まれる世俗的な嘘話を信じるのもどうかと思うけれど、「ありえない」と言ってしまっても、仕方ない。

概ね、本当の事としておいて、一途には信じ込まず、また疑って馬鹿にするべきでもないのである。



世間に流通することの多い、「程度の低いヨタ話」などは、浮いては消えてしまうものなので、気にすることは無用。

立派な人は怪しい話はしないけれど、程度の低い輩はえてしてヨタ話が大好き。

ここで週刊誌の見出しを思い出すと、よくわかる。

実に根拠のない憶測だけで、他者を攻撃し、貶めて喜ぶような記事にあふれていることか。

こうなると知る権利や報道や言論の自由どころではない、ペンの暴力団とでも言いたくなる。

そういった権利や自由には、結果責任を取るべきと思うけれど、被害者に謝罪などを行ったとは、ほぼ聞いたことがない。

逆に「襲撃された某小学校関係被害者にまで謝らせる」ような風潮まで、あるのだから。


仏神や聖人、高僧の奇跡話には、確かに「ありえない」と思われるようなことが多い。

兼好氏は、否定も肯定もしない、ただ、「そういう話があった」と、受け止めるだけとしている。

信仰に基づく「嘘」なので、特に判断を控えたのだと思う。


ただ、一々、文句を言っていたらキリがないのが、本音かもしれない。

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