クラちゃんの水遊び
【今回の登場人物】
クラ…国王様の孫娘
ミツカ・ヨツカ…レイク村で宿屋を経営する姉妹
本当は夜の張り込みに備えて仮眠を取りたかったけど、クラちゃんの強い要望によって夕方まで湖で遊ぶ事になってしまった。
とは言え何かあった時に全員が寝不足でボーっとしているのは危険過ぎるので衛兵の三人には休んで貰っている。
「クラちゃん、湖水浴に来た事あるの?」
「ありません! というか私が王都から出るのは公務の時だけなので自由に遊べる時間なんてありませんよ……」
「「そうだったんだ……」」
少しだけクラちゃんに同情した俺とミスズは、せめて今日だけでも思いっきり遊んであげようと決心し水着へと着替えて湖へと向かった。
ミスズはこの間の湖水浴ツアーの時に着ていた水着では無く、クラちゃんとお揃いの赤いフリフリが付いた水着を着ている。
クラちゃんが水着を持っていないと聞いてお揃いの水着を新調してきたらしい。この世界にも浮き輪やバナナボートがあればもっと楽しめるのにな……
「そういえば今日は小さな魚があんまり見当たらないですねっ、どうしたんでしょうか」
確かにミスズの言う通り、以前は石を投げただけで沢山集まって来ていた小魚たちが今日はあまりいない。
まあ魚にだって都合の悪い日ぐらいはあるだろうし、今日たまたまいなくてもそんな気にする必要はないだろう。
ミスズとクラちゃんは浅瀬で水を掛け合いながらキャーキャー走り回っている。こうやって見ているとクラちゃんも年相応の女の子、王様の孫娘という雰囲気では無かった。
「きっと今までもいっぱい我慢してきたんだろうな……。これから時間があればクラちゃんと少しは遊んであげよ」
俺はそうつぶやいた後、浜辺の木陰に腰を下ろし今夜の作戦を練る事にした。
まずバスの駐車場所は宿の前にある大通りで良いだろ。もし馬車が来たとしても通行の邪魔にはならず、ちょうどミスズが部屋の窓からハイウルフを見たという場所の近くにあたる。
そして今回は危険が伴う可能性が高いからミスズとクラちゃんには宿で待っていて貰おう。
と、そこまで考えた所で俺はふと思った。
……いや、よくよく考えるといくら宿の中とは言えハイウルフがうろついている村内に護衛も無しで残す方がよっぽど危険じゃないだろうか。
これはみんな揃ってバスに乗っていた方が一番安全なのかもしれない。
せっかく部屋を用意してくれたミツカには申し訳無いけど、何かあった時すぐ行動できるようにと今夜は全員バスの中で夜を明かす事にしよう。
「シュウ君もおいでよ~」
ちょうどその時、湖の方からミスズの呼ぶ声が聞こえて来た。浅瀬での水遊びに飽きたので沖の方まで一緒に泳いで行こうという事らしい。
「止めときなよ、急に深くなったりしたら危険だし。前もそれで穴にハマっただろ」
「えー行きたいのに!」
クラちゃんが駄々をこね始めたその時、湖の奥の方か何やら銀色のうねりが近づいてくるのが見えた。
「「「何あれっ」」」
危険を感じた俺たち三人は慌てて砂浜へと上がった。
「あれは……お魚さんじゃないでしょうかっ」
だんだんと近づいてくる銀色のうねりの正体は、ミスズが言う通り以前この湖で見た小魚のようだった。しかしその数が尋常ではない。さっきまでは一匹も居なかったのに何で急にこんな大群になって押し寄せてきたんだろう。
特に魚以外の物が紛れているという事も無く一見すると危険は無さそうだが、ひとまず湖水浴はここまでにして一度宿に戻りミツカに話を聞いてみる事にしよう。
「そうですねっ、なんだか気味悪いですし」
「はーい」
クラちゃんも満足している様子だし、そろそろここからはお仕事の時間だ。