大量のオームボアの死骸が消えた理由(3)
【今回の登場人物】
クラ…国王陛下の孫娘
ここは異世界だし免許も何も関係ない。
とは言ってもいきなり大型車を車の知識も何もない異世界の少女が運転できる筈がなく、仕方ないので足を負傷している俺の代わりにペダル操作だけをミスズに任せる事にした。
それはつまりどういう事か。
「えっ、えっ、シュウ君ちょっとこれは……」
顔を真っ赤にして戸惑うミスズ。
運転席へ座った俺の膝の上へミスズが座り、後ろから抱きかかえるようにしてハンドルを握っている。ちょっと運転しづらいけど、数分の距離をゆっくり走る分には大丈夫だろう。
右のペダルをミスズに踏んでもらい、バスはゆっくりと発車した。
「その調子!」
バスは人が歩く位の速度でゆっくりと王宮への道を進んでいく。ニ〇分程の時間をかけてようやく王宮まで到着した。俺達は衛兵に事情を説明しクラちゃんへと取り次いで貰う。
「シュウさん、ミスズさん大丈夫ですか!?」
慌てて駆け付けてくれたクラちゃんの指示で俺とミスズは王宮の処置室へと連れ行かれ手当てを受ける事ができた。
「ありがとうございますクラちゃん」
「本当にありがとう」
俺たちの元へは国王様も駆けつけてくれた。そしてハイウルフ程の高ランク魔物を六匹も持っていた理由を説明する為、オーラド村であった事を話すと国王様は大変お怒りになられた。
というのもオーラド村周辺で旅人や商人が襲われる事件が増えた事は王宮でも把握しており、対策に乗り出していたらしい。それがまさか村長による仕業だったというのは受け入れがたい事実なのだろう。
ほとんどケガの無かったミスズはその後王宮の馬車で自宅まで送り届けられ、俺は王宮へ一日泊らせて貰う事になった。
特にやる事の無い俺はベッドの中で考えていた。なぜハイウルフは生き返ったのだろう……。
そういえば今までバスと接触した魔物はその場に放置したか、持ってきた物については比較的早い段階で調理をしたり解体したりしていたっけ……
俺がこの世界に来て一番最初に轢いてしまったキングボアを見つけ、フルーテ領まで持ち帰ったハンター達も念の為にとどめをさしてから運んだと言っていた気がする。
これらの事を踏まえて一つの仮説を立てた。
もしかするとバスと接触しても魔物は死にはしないのではないだろうか。生命力、いわゆるHPがバスに吸い取られ一時的に仮死状態にはなるが、時間が経てば徐々に回復してまた生き返る。
回復するまでの時間は魔物によって違うのかもしれない。
そうであれば、バスと接触して死んだと思われた大量のオームボアが消えてしまった謎も説明がつく。単純に時間が経って回復しどこかへ行ってしまっただけなのだから。
もしこの仮説が本当なら……魔物を一匹トランクルームに閉じ込めておけば永久に燃料の心配はいらないのでは……。
いや、さすがに弱って来てそのうち本当に死んでしまうか……。
「よし、今度桃耳ウサギを捕まえて実験してみよう」
ほぼ無害な魔物である桃耳ウサギなら実験台にしても安全。それまでは念の為に魔物を持ち帰るのを控えるようにしよう。
さすがに王宮だけあって薬草類は豊富に揃っており、俺の負傷した足は痛みも取れだいぶん楽になっていた。明日になればもう一人で歩けそうだ。