畑を荒らす魔物の正体(5)~不可解な出来事の理由~
それを見た魔物は鼻をクンクンさせながらゆっくりと近づいて来る。そして十分に引き寄せた所でバスを急発進させた。
≪ドンッ グギィィィイイイイー ≫
一瞬逃げようとした魔物だったが、それよりもバスの加速が早く、正面から魔物とぶつかった。その瞬間に魔物は大きい奇声のような悲鳴を上げ、長時間のアイドリングですっかり減ってしまった燃料計の針は満タンを指した。
魔物の駆除が完了した事を伝え、もう危険が無い事が分かると全員が徐々に平静を取り戻し、安堵の表情を見せ始める。
「確かに静かになったが、本当にもう大丈夫かね」
「他に仲間がいる様子もありませんし、恐らく大丈夫でしょう」
ロンガンさんの指示でハンター三名が武器を手に、恐る恐るバスから降りて魔物を確認しに行った。ライトを点灯させた事よって周辺は明るく照らされ、横たわる魔物もはっきりと目視する事ができる。
ハンターの一人が剣を使ってバスの前に倒れるキングボアをツンツンと突つくが微動だにしない。
死んだふりをする程賢い魔物ではないので息絶えている事は間違いない。そう判断したロンガンさん自らもバスから降り、俺も後へと続く。
魔物の体はまだ暖かく、外傷はもちろん車体への傷も一切ない。いつも通りの状況だったが、今回は魔物の大きさがさすがに大きすぎた。
「ここまで大きいと二匹を同時に運ぶのはさすがに難しいです……」
ロンガンさんと相談した結果、やや大きい方のキングボアをバスのトランクルームへ詰め込み、もう一匹は明るくなってからロンガンさんが運搬部隊を派遣する事で話がまとまった。
「しかしまだ信じられない、この間運び込まれた物も合わせれば、この短期間で三匹ものキングボアが出現した事になってしまう。もうこれ以上いなければ良いのだが……」
屋敷へ戻った俺たちは、ロンガンさんから約束していた報酬の金貨五〇枚を受け取り、キングボア売却分は時間がかかるという事で後日黒猫亭まで届けてくれる事になった。
「それはいくら何でも異常事態と言わざるを得ませんねっ」
屋敷で待っていたミスズも今夜の話を聞いて不可解と言わんばかりの表情を浮かべる。
「今回のキングボアは二匹とも特に身体が大きかったので、この間のキングボアとの三匹が家族だった……という事は考えられませんか?」
俺がこの世界に来た直後に轢いてしまい放置したキングボアは、人間位の大きさで今日の二匹よりかは明らかに小さかった。
もしこの三匹が家族であった場合、イノシシは一度に四~五匹の子供を産むと聞いた事があるので他にもまだいる可能性は残る。
ただそれはイノシシの話であって、この世界の魔物が同じかどうかは分からないが……。
今夜はもう遅いから――
ロンガンさんのその言葉で報告会はお開きになり、キングボアの件は引き続き調査を行って何か分かれば金貨を届ける時に報告するという事になった。
「おやすみなさい、シュウ君」
「おやすみ」
俺たちはこのまま屋敷へ一泊させてもらう。
今日ミスズはフルーテ領への移動中にバスの中でお菓子をモソモソ食べていた。屋敷に着いてからも軽食をご馳走になり、屋敷で待っている間もレンナさんと一緒にスイーツ類を頬張っていたらしい。
余計なお世話かも知れないが、彼女は色々と大丈夫なのだろうか。
――翌朝になって側近のディルさんから聞いた話によると、夜中にも関わらずあれから街の有力者達が急遽集められ緊急会議が開かれたという。
しかし残念ながら、この異常発生の原因や今後の対策について、成果と呼べる程の成果は無かったらしく、ひとまずキングボアを解剖して生態を調べる事から始めるらしい。
これは一体なんだろう。上手く説明する事は出来ないが、俺の頭の片隅には昨日から何とも言えないモヤモヤした何かが渦巻いている。
屋敷の皆に見送られながら、俺はその感情を抱いたままミスズと共に帰路へと着いた。
「そういえばクラッカー美味しかったよ」
「クラッカーですか?」
……
「ちっ、違いますっ! あれはクッキーですっ!」
「えっ、でも甘くなかったしちょっと塩が効いてて……」
「違いますーっ!」