畑を荒らす魔物の正体(3)~魔物との遭遇~
応接室の窓からは、屋敷の使用人達によってバスへ軽食や飲み物、手作りのお菓子、その他にも毛布などが積み込まれて行く光景が見えた。
「では、そろそろ出発するかね」
そろそろ日も傾いてきたので、完全に暗くなる前に畑へ移動してしまった方が良いだろう。ロンガンさんのその言葉を聞いてミスズが近づいてきた。
「これ出発の時に話した夜食です! 私が作ったのでお腹空いたら食べて下さいっ」
可愛らしいピンク色の巾着袋からはほのかにバターの香りが漂って来る。それを受け取った俺はロンガンさんと共に応接室を後にし、ハンター・畑の所有者と合流してバスへと乗り込んだ。
「それでは出発しますので、席へお掛け下さい」
よく考えると異世界へ来てミスズと出会った後、バスを運転する時には必ず隣にミスズが座っていた。今回は危険が伴うので連れて行けない……俺は寂しさを紛らわすようにアクセルを踏み込んだ。
領主様の屋敷から畑までは馬車でも三〇分程とそこまで遠い距離ではないが、それは畑を荒らす犯人が凶悪な魔物だった場合、住人の危険度もより高くなる事を意味している。
「ここです、この辺り一帯が私の畑です」
畑にはまだ荒らされたような形跡は無く、見るからに甘く熟れた美味しそうな果実が沢山なっている。
全体を見渡す事ができる木の陰にバスを停め、念の為に電気を消す。辺りはもうすっかり暗くなり、月明りが畑をうっすらと照らし出していた。
この暗さだと何かが現れたとしても目視するのは確かに難しい。ここは手慣れたハンター達に周囲の警戒を任せ、俺たちは車内で待機する事になった。
バスの中には先程運び込まれていた夜食が大量にあるが、暗い車内でどうやって食べるか、それが当面の課題になりそうだ。
――それから数時間が経ったが、何かが現れる様子は無く暗闇に目が慣れて来た俺たちは車内で立食パーティーを楽しんでいた。
「来ませんね」
「来ないに越した事は無いんだが、正体が分からないというのは何とも気味が悪いな」
俺もロンガンさんも半ば諦めかけていたその時、ハンターの一人が慌ててバスへと走って来た。
「東の方向から二匹、何か魔物のような物が来ました」
近くにいた他のハンターも一旦車内に避難させ、念の為にバスのエンジンをかけた上で魔物が現れたという東側を警戒していると木がゴソゴソと動く気配があった。
「どうしましょう? ライトを点けて対象を確認しますか?」
この後の判断はロンガンさんに委ねられる。
「いや、車内は安全という事なので本当にこの魔物が荒らした犯人なのかどうか、もう少し様子を見させて貰おう」
暗くてはっきりとは分からないが、例の魔物は木に突進を始めたらしく大きな衝突音が鳴り響いた後にメリメリと木が折れ倒れるような音が聞こえた。
「これほど簡単に木を倒すとなると、相当大型の可能性があるな……。シュウ君、そろそろ照明をつけて貰えるかな」
「分かりました」
≪ドンッ≫
俺が運転席へ移動しようと席を立ったその時、立っていた者全員が転ぶ程の大きな衝撃がバスを襲った。
木に突進している魔物に気を取られているうちに、もう一匹の魔物がバスの背後へと回り込んで攻撃を仕掛けて来たようだ。
どうやらある程度の知能がある魔物のようだが、相手が魔物である以上バスと接触した時点でもう既に息絶えているだろう。
急いで立ち上がった俺は運転席へと移動し、ヘッドライトと車内灯を全点灯させた。それによって木に突進していたもう一匹の魔物が照らし出され、正体が明らかになった。
「そんな馬鹿な……」
「あり得ない……」
「何という事だ……」
バスが魔物に対しては安全である事は同乗するハンターや畑の所有者には何度も説明しているが、実際に魔物を前にすると恐怖心からか皆身動きができない。
その中でも、一般人である畑の所有者の男性は意識があるのかどうかも怪しい様子だ。