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想造世界  作者: 篤
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スロイデル救出戦①

スロイデルが襲撃を受けた頃、スロイデルから数十キロ離れた野営地では、熾炎隊と綺蓮隊が小競り合いでの勝利の余韻に浸っていた。


しかし、スロイデル方向から立ち上る異様な黒煙と、夜空を不気味に照らす炎の光に、彼らはただならぬ異変を察知していた。


「あれは……スロイデルの方向か?」


アーヴィルが眉をひそめ、遠くの空を見つめる。


「ただの火事ではないな」


サキルが隣で冷静に分析する。


「あれほどの規模の炎と、あの不気味な光は……何者かが意図的に引き起こしている可能性が高い」


その時、一人の伝令兵が血相を変えて駆け込んできた。


「緊急指令!ゼルグ本国より至急の報です!スロイデルが何者かの襲撃を受け、壊滅的な被害を受けています!直ちに救援に向かい、敵を排除せよとのこと!」


「……やはり、朝の悪夢は警告だったのか」


サキルは呻くように呟いた。


「詳しい被害状況は?」


ブレイルが冷静に問いかける。


「民間人、兵士合わせて数百名の死傷者が出ているとの報告です。しかも、その死に方が異常で……炎で焼け死んだ者と、氷で凍死した者が半々だったと」


「全軍、直ちに出撃準備!」


アーヴィルが号令を発する。


「スレイ、ユイン、ディルン、クレリッド!緊急出動だ!」


「おう!」「了解よ!」「承知いたした!」「はい!準備します!」


各隊長が一斉に応答し、野営地は一気に臨戦態勢に入った。


熾炎隊と綺蓮隊は驚異的な速さでスロイデルへ向けて進軍を開始した。

スロイデルに到着した両軍が目にしたのは、想像を絶する惨状だった。

かつて美しく整然としていた軍事都市は、まるで地獄絵図と化していた。

街の至る所で火災が発生し、同時に氷に覆われた建物も点在している。


「これは……」


ブレイルの声も震えていた。


「一体何者の仕業だ……」


アーヴィルの拳が握りしめられる。


「被害の規模から見て、相当な実力者だ。しかも複数いる可能性が高い」


サキルが冷静に分析する。


「慎重に行こう」


「まずは城の状況を確認しよう」


ディルンが提案する。


「指揮系統が生きていれば、対処法が見つかるかもしれん」


しかし、スロイデル城に近づくにつれて、奇妙なことに気づく。

城壁の上には確かに兵士たちが配置されているが、その動きがどこか不自然だった。


「おかしいな……」


ディルンが眉をひそめる。


「城の守備兵の動きじゃ。まるで我々を敵と認識しているような……」


確かに、城壁の上に並ぶスロイデルの兵士たちは、救援に来たはずの熾炎隊と綺蓮隊に向けて弓を構えていた。

しかし、その瞳には生気がなく、まるで人形のようだった。


「止まれ!これ以上近づくな!」


城壁から声が響く。


「我々はゼルグ軍、熾炎隊と綺蓮隊だ!救援に来た!」


アーヴィルが大声で応える。


「嘘だ!貴様らこそ侵入者の仲間だろう!近づけば射る!」


その時、城壁の一角に、二人の美しい女性の姿が現れた。

一人は長い金髪を風になびかせた妖艶な美女ーーメレーシェル。

そしてその隣には、よく似た面差しを持つが、より幼い雰囲気と淡いピンクがかった金髪を持つ少女ーーミリーレテの姿があった。


「ふふふ……ようこそいらっしゃいました、熾炎隊に綺蓮隊の皆さん」


メレーシェルが薄く微笑む。


「せっかく来てくださったのに、申し訳ありませんが通すわけにはいきませんの」


ミリーレテは姉の袖を少しだけ引っ張り、興味深そうに前方の軍勢を眺める。

その表情には無邪気な笑みと、どこか人を小馬鹿にしたような視線が混在していた。


「お姉様、あれが噂のゼルグの英雄たち?うーん、思ったより普通そうだね〜。でも戦場で見たらもっと面白い顔になるのかな?」


「ミリーレテ、今はお遊びの時間じゃありませんよ。せっかく私の人形たちが勢揃いしているんですから、しっかり見張っていてくださいな」


「はーい♪ でもね、お姉様。あんまり酷いことしたら、また怒られちゃうかもよ?前みたいに暴れすぎって叱られるの、私嫌だもん」


「大丈夫ですわ。今日はちゃんと役割分担していますもの。あなたも裏方でしっかりサポートしてちょうだい」


ミリーレテはくすりと笑い、小さな指を軽やかに動かす。

彼女もまた姉に劣らぬ幻術と精神操作の異能者であり、姉妹で一糸乱れぬ連携を誇っていた。


「じゃあ、私は内側から仕掛けておくね〜。お姉ちゃんの人形劇の幕が下りないように……」


「頼みましたよ、ミリーレテ」


メレーシェルの指が軽やかに動くと、城壁に配置された兵士たちが一斉により戦闘的な姿勢を取った。

彼らの動きは統制されているが、どこか機械的で不気味だった。


「あれは……幻術で操られているのか」


サキルが状況を把握する。


「敵の中に精神操作系の能力者がいる。しかも複数だ。城の守備兵が完全に操られている」


城壁の上では、姉妹が楽しげに会話を続けている。


「ねえねえ、お姉ちゃん。あの人たちも人形にしちゃダメ?きっと素敵な人形になると思うな〜」


「あら、それは面白いアイデアですね。でも今は城を守ることが優先ですわ。焦らずじっくり、絶望を楽しみましょう?」


ミリーレテの瞳が妖しく光った。


「全軍に告ぐ!」


アーヴィルが大声で号令を発する。


「城の守備兵は敵の術により操られている!可能な限り殺さず、無力化することを優先せよ!」


「了解!」


各隊長が応答する。

城壁からは矢の雨が降り注ぎ始めた。メレーシェルとミリーレテの指示により、操られた兵士たちが一斉に攻撃を開始したのだ。


「盾を構えろ!前進!」


「ユイン隊、制圧射撃で援護!ただし殺傷は避けろ!」


「了解!狙うのは武器と足よ!」


「スレイ隊、左翼から!ディルン隊、正面突破!」


「おう!行くぞ野郎ども!手加減を忘れるなよ!」


「承知いたした!慎重にいくぞ!」


一方、綺蓮隊も機動戦術を活用して城の側面から攻撃を仕掛ける。


「綺蓮隊、右翼から迂回!敵の注意を分散させる!」


操られた城の守備兵たちは、まるで狂ったように抵抗を続ける。彼らの動きは通常の兵士とは異なり、痛みを感じていないかのように戦い続ける。


城壁の上では、姉妹が優雅に微笑んでいた。


「わあ、みんな頑張ってる〜!お姉ちゃん、私たちの人形さんたち、とっても強いね!」


「ええ、でも相手も手強いですわ。特にあの黒髪の軍師……私たちの術を看破しようとしているみたいですね。さすがタシュアさんのお気に入り」


「大丈夫だよ〜。お姉ちゃんと私が一緒なら、誰にも負けないもん!」


「そうですね、ミリーレテ。私たちの絆は誰にも壊せませんもの」


その言葉を合図に、城門が完全に閉鎖され、重厚な音を立てて希望を阻むようにそびえ立つ。


こうして、スロイデル城を舞台とした、熾炎隊・綺蓮隊による「味方を救うための攻城戦」の幕が切って落とされる。

操られた兵士たちとの苦しい戦いが、今まさに始まろうとしていた。















城壁の上で、二人の美しい女性が優雅に立っていた。一人は長い金髪を風になびかせた妖艶な美女、そしてその隣には、よく似た面差しを持つが、より幼い雰囲気と淡いピンクがかった金髪を持つ少女の姿があった。


「さーて、早速始めちゃいましょう〜」


「おー!」


気の抜けた声が残酷な戦闘の開始を告げた。

合図とと共に操られた兵士たちが動き出す。

すると彼らの動きが明らかに異常であることが判明した。

常人ではありえない速度で矢を避け、盾で弾き、時に素手で矢を掴み取るような動きを見せる。

なんなら操られる前よりも動きが俊敏になった可能性があると思えるほどに。


「なんだこいつら!?動きが異常だぜ!」


スレイが叫ぶ。

彼の豪腕の一撃を受けても、兵士たちはすぐに立ち上がり、怯むことなく襲いかかってくる。


「くっ、これでは無力化が難しい……!」


ディルンも苦悶の表情を浮かべる。

兵士たちは、手足が折れても、深手を負っても、まるで痛覚がないかのように戦い続けた。


「単純な精神操作じゃない」


サキルが冷静に分析する。


「あの兵士たち、創力の流れが異常だ。まるで体内の創力が人為的に操作されているような……」


城壁の上では、姉妹が楽しそうに手を叩いていた。


「すごいすごい!お姉様の幻術で精神をコントロールして、私の術で創力をめいっぱい高めてあげたから、みんなとっても強いよ〜♪」


「ええ、ミリーレテ。完璧な連携ですわね」


「待てよ……」


サキルが何かに気づいたような表情を見せる。


「この兵士たちの異常な戦闘能力、そして体内の創力の流れ……まさか」


「何か分かったのか?」


アーヴィルが問いかける。


「恐らく、あの少女は『依術』の使い手だ」


「依術?」


ブレイルが眉をひそめる。


「精神操作である幻術と対をなす、創力操作の術だ。術をかけた対象の体内の創力を自在にコントロールできる。創力を抑制したり逆に暴走させることも可能だ」


サキルの説明を聞いて、一同の顔が青ざめた。


「つまり、あの金髪の女性が幻術で精神を操り、その妹らしき少女が依術で創力を操作している。二重の拘束だ」


「それって解けるのか?」


スレイが不安そうに問う。


「幻術は依術を使って『解』を施せば解けるだろうし、依術は対象に外部から創力を流し込めば解けるだろうが……この二重拘束は正直どう処置を施せば解けるか俺でも検討がつかない」


「マジか……」


深刻な表情で顎に手をやるサキルにスレイは言葉を失う。


「幻術への対処と依術の対処を別々にやれば解けるだろうが確実とはいえない。他に良い方法があるかもしれないが、それは探り探り対処するしかないな……」


「結局そうなるか……皆の者、取り敢えず無力化を指標にして戦え!」


サキルの言葉を聞き、アーヴィルがそう解釈して自軍に叫ぶ。

思案するサキルを他所に、アーヴィルの強烈な一撃を受けた操られた兵士が、全身を強打して倒れ伏した。


「あ、その子もう使えなくなっちゃった〜。じゃあ、さよなら♪」


少女が指をぱちんと鳴らした瞬間、重傷を負って動けなくなっていた操られた兵士の体が突然光り始めた。


「まずい!離れろ!」


サキルの警告が響く間もなく、その兵士の体内で創力が限界を超えて暴走し、巨大な爆発が起こった。


「ぐあああ!」


「何だこれは!」


爆発に巻き込まれた熾炎隊の兵士たちが吹き飛ばされる。幸い死者は出なかったが、数名が重傷を負った。


「これは……内側から……破裂したような……」


クレリッドは震える手で負傷した兵士たちを診ながら、蒼白な顔で呟いた。普通の傷ではない。

体の内側から何らかの力が暴走し、自壊したような死に方だ。


「本来依術では自死させることまではできないと聞くが……」


サキルが震え声で分析する。


「あの少女の依術は、術をかけた対象の限界を超えて暴走させることによって、自爆に近い自死をさせることができるのか」


その時、また新たな爆発が起こった。今度は綺蓮隊の近くで、負傷した操られた兵士が自爆したのだ。


「くそ!」


ブレイルの部下たちが慌てて散開する。


「あの……」


クレリッドが恐る恐る手を上げる。


「僕、気づいたことがあります」


「何だ?」


サキルが振り返る。


「爆発のタイミングと場所を記録していたんですが、パターンがあります。あの少女は、一度に大量の自爆を起こすことはできないようです」


「どういうことだ?」


「爆発が起こる間隔を見ると、だいたい30秒から1分のインターバルがあります。それに、依術は直接触れる必要があるということなら、操られた兵士全員に術がかかっているわけではないはずです」


「なるほど……」


サキルの目が光る。


「事前に術をかけられる人数には限界がある。しかし、それでも相当な数の兵士に仕込まれている」


城壁の上では、姉妹が楽しそうに戦況を眺めていた。


「ねえ、メレーシェル。あの人たち、まだ諦めてないみたい。面白いね〜」


「ええ、ミリーレテ。でも所詮は無駄な足掻きですわ。私たちの連携の前では、どんな英雄も無力ですもの」


「うん♪ 私の依術で人形さんたちの創力をコントロールして、お姉ちゃんの幻術で精神をコントロール。二重の支配で、絶対に逃げられないの〜」


絶望的な状況の中で


「これは厄介だ……」


ディルンが眉をひそめる。


「敵を倒すことができない上に、倒れた敵が爆弾になる」


「まさに三重苦だな」


ユインも両手に剣を構えながら苦笑いを浮かべる。


「敵を倒せない、倒れた敵は爆発する、術者には近づけない」


「でも、諦めるわけにはいかない」


アーヴィルが決意を込めて言う。


「この城の中には、まだ生きている人たちがいるかもしれない」


「問題は、どうやってあの二人に近づくかだ」


サキルが冷静に分析する。


「幻術と依術の二重拘束を解くには、術者を直接無力化するしかない。しかし、城壁の上にいる以上、簡単には近づけない」


「しかも、操られた兵士たちが盾になっている」


ディルンが付け加える。


「彼らを傷つけずに進むのは至難の業だ」


戦場に響く姉妹の笑い声は、まるで死神の囁きのように熾炎隊と綺蓮隊の兵士たちの心を凍らせた。


依術と幻術の完璧な連携を前に、ゼルグの英雄たちは今、最大の危機に直面していた。サキルの頭脳も、アーヴィルの武勇も、ブレイルの戦術も、この二重の呪縛を前にしては無力に思えた。


事前に依術を仕込まれた操られた兵士たちは、怪我を負って使えなくなると、少女の力で自爆して始末される。その爆発は周囲の敵——つまり熾炎隊と綺蓮隊の兵士たちに被害を与える。まさに死してなお戦う、完璧な戦術だった。


しかし、まだ戦いは始まったばかりだった。真の試練は、これから始まるのである。

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