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想造世界  作者: 篤
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次なる惨劇①

 ゼルグの主要都市スロイデルは、木造造りが主体となった建物が密集して建ち並ぶ、一キロ四方にも及ぶ広大な軍事都市だった。

 その木造建築群は、まるで巨大な迷路のように複雑に入り組んで配置されており、全てがスロイデルの中心部にそびえ立つスロイデル城への道を意図的に遮るように建てられている。

 これは単なる都市計画ではなく、外敵の侵入を困難にするための綿密な軍事戦略に基づいた設計だった。


 その中央の城の周りには兵の居住区が広がり、その外側には民の居住区が配置されているが、それらを明確に隔てるように巨大な石造りの壁が聳え立っていた。

 この壁は単なる区画分けではなく、有事の際には各区域を完全に封鎖できる軍事的な意味を持っている。


 民の居住区の中にも、兵が謀反を取り締まるために幾人か紛れ込んでいた。

 彼らは商人や職人、時には乞食に扮装し、市民の日常に溶け込みながら、常に反政府活動の芽を摘み取ろうと目を光らせている。

 それに加えて常に治安を維持するための特殊部隊も町を闊歩している要塞の如き軍事都市である。


 また、関所では通行証の提示と詰問といってもよい強引な身元確認があり、町に入れるのは一日に一定人数までという厳しい通行統制も常時稼働していた。

 当然、関所以外は憲兵達が目を光らせている。

 万が一関所以外の場所から侵入してきた者がいた場合、その者は問答無用で切り捨てられた。


 さらには、今現在スロイデルは特別厳戒態勢下にあり、唯一ある関所も今は完全に閉められている。

 中央の城と兵の居住区、民の居住区を隔てる壁とは別に、軍事都市スロイデル全体を八〜十メートルはある外壁が取り囲んでいた。

 長大でいて巨大な壁の上には数百名程の見張りの兵がいる。


 それほどに常に厳戒態勢を敷いているスロイデルがさらなる厳戒態勢に入れば、言うまでもなく侵入は不可能に近いだろう。


 だが、既に内部に侵入している場合はその限りではない。


 なまじ外からの侵入を拒むことに傾注した特別警戒態勢にある為に、常時より内部への警戒が緩まる。既に内部に侵入者がいたとしても気付くことができないのだ。


 といっても、「緩まる」というだけで内部への厳重な警戒も決して忘れ去られてはいない。

 それでも、ある程度の手練れならスロイデルの兵達の意識の外に紛れ込むことは可能だ。


 しかしながら、既に内部にいた侵入者の存在だけならまだしも、その侵入者が新たな侵入者を手引きした場合は別である。


 スロイデルの兵達の意識の外にある侵入者が手引きしたとしても、更なる侵入者を招こうとすれば必ず厳戒態勢下にあるスロイデルはそれを見逃さない。

 既に内部からの侵入者を許してしまっているとしても、常時よりも数倍の兵達が感知術などを常に発動させながら目を光らせている。


 それでも、内部に異常があるのが発覚すれば、スロイデルの兵達の意識は直ぐにでも一斉に内へと向けられるだろう。


 しかし——


「いつもながらタシュアさんは能力が高過ぎますね。私の力をここまで使いこなすとは……あなたには頭が上がりませんよ」


「いやいや、君の力の方が凄まじいよ。僕が使えるのはその劣化版に過ぎないからね」


「タシュアさんはそれ以外にやれる事が多すぎるんですよ。私が唯一できることすらも真似されては私の立つ瀬がありませんよ……」


「そう腐るなってフォーユ君。逆に誇るべきだよ?僕が完全に真似できないのは君の力くらいだからね」


「それは誇って良いのでしょうか……?」


「てめえら無駄口叩くのもいい加減にしやがれ。さっさと始めるぞ」


「バルアさんもフォルデさんも、まだ他の三人が配置についてないので、どのみち作戦はまだ始められませんよ?」


 あり得ないことに、厳戒体制で警戒心を極限まで尖らせたスロイデルの兵達が目を光らせている中で、堂々と壁の上の一角で話す三人の侵入者がいた。


 その四人のいる場所はスロイデルの外壁の上の見張り台だ。

 彼ら周りにはつい先程まで見張り台で周囲を見張っていたスロイデルの兵達が倒れている。


 そんな非常事態なのに、誰もその侵入者四人のいる見張り台に意識を向けようとしない。

 彼らは壁の外からの来るかも定かでない侵入者に向けてひたすら意識を注いでいる。


 ふと、外壁で目を光らせているスロイデルの兵達の内の一人が四人の侵入者がいる壁の見張り台を見た。

 しかし、すぐに視線を壁の外——スロイデルの外に向ける。


 そう、見えてないのだ。いや正確には目に見える光景を偽られているというべきか。


 その異様な光景の正体、それは空間偽装術。

 ある一定の空間を術者の任意の空間にすり替える——言うなれば、空間のコピーアンドペーストだ。


 直前までとそっくりの空間をコピーしてある一定の範囲に貼り付ける。

 今回のシチュエーションに当てはめれば、それで「何の異常事態もない光景」のできあがりだ。

 そうしたら、好き放題異常事態を起こしても偽った空間が破られない限り、感付かれることはない。


 その貼り付けられた空間は幾らかの衝撃を受けなければ消すのは不可能である。

 同質空間上にある創力を感知する感知術も、空間の壁の前には無意味だ。


 その術が施されていた故に、スロイデルの兵達は四人の侵入者がすぐ目の前で平然とお喋りをしていても、意識を傾けることはできなかった。


 術を看破するには空間に違和感を感じる鋭い勘や、感知術以外の何らかの感知系の術などしかない、極めて厄介な術である。


 それほどの空間偽装術に護られた四人の侵入者は尚も血眼で侵入者を阻もうと目を光らせているスロイデルの兵達を尻目に堂々と会話を続ける。


「チッ、あの淫乱女共はまだ配置につけてねえのかよ。とろとろしやがって、あの愚鈍共が」


 バルアが焦れた風に悪態をついて、


「バルア少し静かに待てないの?親切に意訳してあげれば、黙れ少しも我慢できないのか短期が服を着て歩く無神経男、だよ」


 それをタシュアが穏やかな声音だがタシュアらしからぬ辛辣な言葉で突き返す。


「おい、タシュア!仕方ねえからてめえと一緒に任務してやるが、あんまりほざく様なら任務そっちのけでてめえをぶっ殺すぞ!人の感情が何だとかそんなつまんねえことしか考えてねえ、変態野郎が!」


 タシュアの毒舌に額に青筋を立てて、バルアが怒鳴る。


「……君が僕に対して悪感情を抱くのはいいよ。僕も君が心底嫌いだからね。けど、僕の目的を馬鹿にするのだけは許せないな。その代償、命で贖ってもらおうか?」


 ただ悪口を並べ立てるだけならタシュアの心に波風一つ立てることはできず、無視されていただろう。

 しかし、タシュアが生きる意味といってもよいその目的を馬鹿にされれば彼も黙ってはいない。

 バルアはタシュアの苛つく点を正確に狙い撃ちしていた。


 そう、二人がこうして角突き合わせるのはこれが始めてではない。

 というより、二人が一緒の任務の時には、決まってこの様に喧嘩の一歩手前のやり取りが繰り返されていた。


 いや、それは喧嘩などと生易なまやさしいものではない。


 タシュアは青紫色の瞳を不気味に輝かせながら常に浮かべている狂った笑みはそのままに鋭い殺意を放つ。

 それに対してバルアもギラついて見える乱暴的な瞳を獰猛に細め、さらにギラつかせながらこれまた尋常でない殺意をぶつけてきた。


 それほどの尋常でない殺意をぶつけ合う二人は必ず任務そっちのけで殺し合いを始めるだろう。


「タシュアさん、バルアさん、ここまできて喧嘩はやめて下さい。この任務が目的達成の鍵になるのですから」


 この冷めてはいるがそこはかとなく威圧感を感じさせる冷水の様なフォーユの仲裁がなければ。


「……………」


「……………」


 タシュアとバルアはフォーユの仲裁の言葉が聞こえても尚、お互いに常人がはたで見るだけで背筋に怖気を走らせる程の殺意をぶつけ合っていた。


「……チッ」


「……フンッ」


 しかし、数秒の無言の後にバルアは舌打ちし、タシュアは鼻を鳴らしてお互いが真逆の方角へそっぽを向く。


 この一連のやり取りを見て分かるだろうが、タシュアとバルアはすこぶる仲が悪い。

 憎み合っているといっても過言ではないのだ。


 端的に言えば二人の性格的な相性が最悪なのである。そのまま放っておけば二人は冗談抜きで殺し合いを始めただろう。


 それを仲裁する役をフォーユがいつも担当している。させられているというべきか。


 故にフォーユはこの二人の仲の悪さには慣れている。

 今もフォーユは仲裁の言葉をかけただけでその後の二人の悪意の……いや、もはや殺意と言っても良いぶつけ合いなど涼しい顔で無視している。


 そして、スロイデルを覆う程の大規模な空間偽装術の術式をすぐにでも発動できる様に保持していた。

 スロイデルの外壁の見張り台にいる四人以外の三人が配置についた時にすぐに空間偽装術を展開できる様に。


 タシュアとバルアは殺意の鉾は収めたものの、一触即発の険悪なムードを作り出している。


 一方のフォーユは目を閉じ意識を、別に動いている三人へと向ける。


 それから不意にフォーユは閉じていた両の瞳を開け、喜色を帯びた声を放つ。


「大変お待たせいたしました。他のお三方が配置につきましたので、早速始めたいと思います。どうぞご存分に暴れて下さい」


 その声と同時にタシュアは口元に浮かべていた笑みを三日月型に歪め、次なる殲滅の為の術の発動準備をしながら空間偽装術を解除する。

 途端に外に向いていたスロイデルの外壁の上にいた兵達の意識が全て侵入者三人へと殺到する。


 バルアも乱暴的に唇を歪め、殺到する殺意を消し去る為の術を発動する。


 だがそれらが発動するより早く、フォルデ達四人に意識を向けた全ての者が、瞬時にその命を掻き消される。


 彼らの死に方がこれまた異常だった。


 彼らの死に方にはニ通りあった。一通り目はあたかも人体発火が起きた様に突然炎に包まれて焼け死に、もう一通り目は全身を蒼白にして、凍え死んでいた。


 それだけでも異常なのに、その焼死体と凍死体となった者達がきっちり半分ずついたのがさらにその異常性を高めていた。


 何が起きたのか、一瞬で葬り去られたスロイデルの兵達には理解もできていなかっただろう。


「あはははははははははははははは!!!」


 これをやったのはタシュアでもバルアでもないーー不気味なオッドアイの瞳を持つフォルデだった。


 一瞬にしてスロイデルの外壁の上の兵達の五分の一ほどを葬ったフォルデは、不気味な哄笑を響き渡らせた。


 それから、スロイデルの家の屋根を伝い、何も知らずにいつも通りの日々を送る無力な民の居住区へと向かった。


「おいおい、待てよフォルデ!あいつ……完全にスイッチ入っちまってるぜ」


「バルア君も大変だね。精々頑張ってね?」


 珍しくタシュアがバルアに同情的な言葉をかける。


 どれほど珍しいかと言えば、半年に一回あるかどうかという程珍しい。


 流石のタシュアもこれからバルアがするフォルデの後片付けという途方も無い苦労を思えば、険悪な仲だろうと同情をおぼえた。


「チッ!待てよフォルデ!このくそったれがぁぁぁぁ!!!」


 そのタシュアの同情的な言葉がすぐにフォルデの後片付けというこれから途方も無い苦労に対してだと彼の中で瞬時に結び付く。


「因みにフォルデ君が暴走し出したらちゃんと止めてね」


「言われなくてもわかってるよ!なんならてめえが止めやがれ!」


「頑張ってねぇ〜」


 もっとも、タシュアが同情の言葉だけで終わる筈もなく最後は罵倒しあって別れた。


 とはいえバルアもタシュアの相手をする暇もなく、急いでフォルデの後を追った。


 取り残された形となったタシュアはまだ昼過ぎの筈だが暗雲が立ち込めている為にどんよりと仄暗い灰色の空を見上げ、次に眼下のスロイデルの街を見渡す。


 既にフォーユは自身を空間偽装術で覆い雲隠れしていた為に今はタシュア一人が外壁の見張り台にいる。


 そして青紫色の不気味な光を放つその瞳を楽しげに細め、独り呟いた。


「さて、始まりだね。今回はどんな絶望が観察できるかな?」


 次なる惨劇が、始まりを告げた。









「あははははははははahahahahaha!!!」


 そんな聞く者の背筋を凍らせる哄笑が、ゼルグの軍事都市スロイデルの夜空に響き渡った。その笑い声は人間のものとは思えないほど歪んでおり、まるで地獄の底から這い上がってきた悪魔の咆哮のようだった。

 音は石造りの建物に反響し、木造家屋の隙間を縫って街の隅々まで伝わっていく。


 平和な夜を過ごしていた市民たちは、その異常な笑い声に身を震わせ、窓の隙間から恐る恐る外を覗き見た。特別厳戒態勢下にあるスロイデルの静寂を破るその哄笑は、まるで死の前触れのように不吉に響いた。


 その異常な哄笑を聞きつけて、スロイデルを警備していた兵達が統率された動きで隊列を組んで駆けつけてくる。彼らは長年の訓練により鍛え抜かれた精鋭であり、その足音は規律正しく石畳を打った。剣を抜き、盾を構え、完璧な戦闘隊形を維持しながら音の発生源へと向かっていく。


 フォルデの異常な殺戮の始まり


 その哄笑の主はスロイデルの民家を屋根伝いに移動していたが、スロイデルの警備兵は選りすぐられた練兵である為に、追いつくこと自体は容易だった。彼らは訓練された精鋭として、どのような地形でも敵を追跡する技術を身につけていた。


 しかし、その哄笑の持ち主——フォルデの一瞥を受けただけで、そのスロイデルの兵達は抵抗の為の創術を放つこともできずにあまりにも呆気なく命を散らした。


 その命の散らし方がやはり異常だった。


 ある者は人体発火現象のように身体を真紅の炎に包まれ、絶叫を上げる間もなく骨まで燃え尽きて焼死し、ある者は体温を全て奪われたように全身が蒼白に変色し、氷の彫刻のように硬直して凍死する。炎に包まれた兵士の断末魔と、凍死した兵士の最期の吐息が、夜の空気を震わせた。


 その死体が丁度半々なのがさらに異常だった。まるで意図的に振り分けられているかのように、焼死体と凍死体が交互に並んでいる光景は、見る者の正気を揺るがせた。


 異常な哄笑に招かれるように集まってくる新手の兵達は、その同胞の壮絶な死に様を目にして怯んでしまう。訓練された精鋭であっても、このような超常的な死に方を目の当たりにすれば、一瞬の躊躇は避けられなかった。


 その怯んだ時間は約三秒ほどの短い時間だが、哄笑しながら命を弄び、吹き散らす者——フォルデの前では、その三秒は致命的だった。


 フォルデに視線を向けられただけで、致命的な三秒に満たない短時間の間に無残なむくろと化す。彼の右目は血のように赤く、左目は氷のように青く光り、その不気味なオッドアイが兵士たちを見つめるだけで死が訪れた。


 そうしてスロイデルの警備兵の被害は徐々に広がっていった。もう既にその被害は百を軽く超えていた。石畳は血で濡れ、焼け焦げた肉の臭いと凍てついた死体の冷気が混じり合って、異様な空気を作り出していた。


 そして——


「あはahahahahahahahahahahaha」


 いつしかフォルデの周りは悲鳴と断末魔の量産地と化し、そんな地獄絵図の中で最早恐ろしいとしか思えないフォルデの——いや、悪魔の哄笑が響き渡る。


 そのあまりにも異常な光景に、最初に到着した新手の兵達の致命的だった三秒は、次の新手が来る度に、その時間を延ばしていった。スロイデルの兵達の中では肝が据わったと名高い兵でも怯まずにはいられなかったほどに。


「隊長!これは……これは一体何なんだ!」


「落ち着け!敵は一人だ!包囲して……」


 しかし、指示が完了する前に、フォルデの視線が彼らを捉えた。瞬間、隊長は炎に包まれて灰と化し、部下たちは氷漬けになって絶命した。


 そうして、さらに被害は雪だるま式に増えて増えて増えていく——


 最終的に被害は三百にも上り、ぞくぞくと集まっていた警備兵の波が遂に途絶えた。街の石畳は死体で埋め尽くされ、もはや足の踏み場もない状態だった。


 新たな獲物の発見


「あhahahahaha、ははは、何だよ……これで終わりかよ……いや、いるじゃないかそこら辺に」


 フォルデは途切れたスロイデルの警備兵の波に哄笑をようやく収めて不満そうに唇を尖らせたが、不意に真下の街路がいろを見下ろす。


 そして、悪魔が新しいおもちゃでも見つけた子どものように、その右目は赤く左目は青くそれぞれ不気味な光を放つ瞳を細め、楽しげな笑みを浮かべる。


 ——あるいは残忍でいて酷薄な表情だ。


 楽しげではあるが、その内には残忍さと酷薄さで満たされている悪魔の瞳。その表情は、まるで猫が傷ついた鼠を見つけた時のような、純粋な悪意に満ちていた。


 その先には大量の悲鳴と断末魔、悪魔の哄笑につられて家を出てしまい、逃げることも忘れて震えて抱き合う親子と思しき姿があった。


 無辜の民への残虐行為


「あはは、はーあahahahahahahahahaha」


 さらに壊れた哄笑を撒き散らしながら、悪魔が壁を蹴って徐々に下降してくる。その動きは重力を無視しているかのように軽やかで、まるで舞い踊るように建物の壁面を移動していく。


 そして遂に震えて抱き合う親子の前に飛び降りてきた。


 近くで見ればその抱き合う二人は三十路に入ったほどの女と五、六才ほどの幼い男の子だった。


 いや、女が男の子を抱いていた。母親の顔は恐怖で青ざめ、子供は母親の胸に顔を埋めて震えている。


「くふふふふふ、強く抱き合っちゃって。そんなに俺様の力の礎になりたいのか?」


 フォルデの声は甘く囁くようでありながら、その奥に底知れない悪意が込められていた。まるで死神が魂を刈り取る前の戯れのような、残酷な優しさが感じられる。


「……………」


 親子と思しき二人は言葉を発することもできずに震えを緩和させる為に身体を寄せ合って体温を温め合うしかない。母親は子供を守ろうと必死に抱きしめ、子供は母親にしがみついて小さく嗚咽を漏らしている。


 だが、次の瞬間、その二人の体温が急激に変動した。


 男の子は急激な体温の上昇により発火現象を起こして火だるまへと変容し、「お母さん!」という最後の叫び声と共に炎に包まれて消えていった。女の方は逆に急激に体温を奪われて凍てついた氷像と化し、子供を抱きしめる姿のまま永遠に固まってしまった。


「ahahahahahaha、感謝したまえ!俺様の力で死ねることを!」


 その親子の無残な死体と化した様相を見ても、悪魔は尚も楽しげに嘲笑う。まるで芸術作品を鑑賞するかのような満足げな表情を浮かべている。


 恐怖に支配される街


 そんなフォルデの異常性を目の当たりにして震えて動けない無辜の民。街の至る所から悲鳴が聞こえ、人々は家に閉じこもったり、必死に街の外へ逃げようとしたりしている。しかし、スロイデルは軍事都市であり、簡単に脱出することはできない。


「助けて!誰か助けて!」


「あの化け物は何なんだ!」


「兵士はどこにいるんだ!」


 しかし、兵士たちは既にフォルデによって大部分が殺されており、残った兵士たちも恐怖で戦うことができずにいた。


 そうしてさらにフォルデはオッドアイを嗜虐に細め——


 先程とは比にならない幾多の悲鳴と断末魔がスロイデルを襲う。


 フォルデは街の中心部に向かって歩き始めた。その足音一つ一つが、周囲の人々の心臓を凍らせる。彼が通り過ぎる道には、炎で焼かれた死体と氷で凍らされた死体が交互に並んでいく。


 商店街では、店主たちが商品を投げ捨てて逃げ回っている。しかし、フォルデの視線が彼らを捉えるたびに、炎か氷によって命を奪われていく。


 住宅街では、家族が家の中で身を寄せ合って隠れているが、フォルデの力は建物の壁すら貫通する。窓から差し込む彼の視線だけで、家族全員が瞬時に死に至る。


 気付いた者もいると思うが、フォルデのオッドアイは彼自身の能力により変異した結果に生じたものだ。

 右目は炎を、左目は氷を司り、その両方を同時に操ることで、彼は絶対的な破壊力を手に入れていた。


 そうと分かったとしても、その不気味に輝く赤と青の双眸はまるで悪魔として見るものを震撼させる為に与えられたもののようだった。


 そうして悪魔、死神、天災、それらと遜色ない存在となったフォルデは、その壊滅的な創術でスロイデルの民と兵の区別なく全ての者を屍へと変えてゆく——


 街の至る所で火災が発生し、同時に氷に覆われた区域も現れる。まるで世界の終わりを告げるかのような、火と氷の地獄絵図が広がっていた。


 フォルデの哄笑は止むことなく響き続け、その度に新たな犠牲者が生まれる。

 彼にとって、この大虐殺は単なる娯楽に過ぎなかった。

 人間の命も、その絶望も、全てが彼の楽しみのための道具でしかない。


 空は次第に暗雲に覆われ、まるで天すらもこの惨劇を見るに堪えないとばかりに顔を背けているようだった。

 しかし、フォルデの狂気は止まることなく、スロイデルの街を死の都市へと変えていく。


 そして、この地獄絵図はまだ始まったばかりだった。フォルデの破壊の宴は、まだまだ続いていくのである。


「いやいや、続いちゃダメでしょ」


「ぐっ!?離せ貴様!!」


惨劇を続けようとしたフォルデを、不意に虚空から現れたタシュアが木の蔦を創術で操り縛り付ける。その蔦はフォルデの身体に食い込み、彼の動きを完全に封じた。


「バルアもちゃんと止めないとだよ?」


「こいつが早すぎるんだよ!それとてめえが捕まえなくても今のタイミングなら捕まえられたわ!」


そこにバルアも合流する。彼の顔には苛立ちと、フォルデの暴走に対する呆れが混じっていた。


「本当かなぁ?まぁどのみち捕まえられなかった無能に変わりはないけどね」


「人の話を聞かねえなぁ!捕まえようとしてたっつってんだろ!」


「はいはい、まぁ今はそんなことよりもフォルデ君を元に戻さないとね」


縛られながら暴れるフォルデの額にタシュアが触れる。その指先から青紫色の光が流れ込み、フォルデのオッドアイの輝きが一瞬にして失われた。


「ぁ…………」


その瞬間、スイッチが切れたようにフォルデの意識はブラックアウトし、やがて正気を取り戻した彼は周りを怯えるように見回し始めた。


「やぁ、僕だよタシュアだ。また『裏』の君に取り込まれていたから戻してあげたんだよ」


「ぁ……そ、そういうことでしたか。いつもありがとうございます」


フォルデを縛っていた木の蔦が外れ、大人しくなった彼は手首をさすりながらタシュアにお辞儀をする。


「それよりも帰りはこのバルアが運んでくれるからね」


「てめえ、何勝手に決めてんだ!」


「僕にはやる事があるからさ。フォルデ君のことは頼んだよ」


「……で何をするつもりだ?」


「うん、僕は大物を討ち取りにいってくるよ」


タシュアはそう笑顔で言い放ち、次の瞬間には近くにある中で最も高い建物を身体強化術を駆使して一気に駆け上っていた。


それによって高い高度を得たタシュアは、その双眸に不気味な青紫色の光を宿し、ざっと惨劇場と化したスロイデルを見渡した。


「三分の一かな。それじゃあこれくらい削ったんだし、後処理は皆さんに任せよう」


そう呟き、純朴で誠実そうな容姿に無理矢理貼り付けたような違和感のある狂った笑みを浮かべ、ある場所へと向かう。


そうしてタシュアが次に向かったのはスロイデルの中枢——スロイデル城がある方向だった。


  スロイデル城がある方向だった——


 















 



 







































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