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想造世界  作者: 篤
35/54

試練の戦①

 


  「第一陣突撃だぁぁぁ!」


  「おおおおおお!」


  最初に仕掛けたのはエイリュウ軍だった。

 その数一千五百。

  様子見にしては多い。

  そして遠距離から創術などを打って敵陣の動揺を誘うことなくただ突撃するだけならば悪手だ。

 冷徹に囲い手で仕留められるのが関の山である。

  強軍で名を轟かせるエイリュウ軍がさすがにそこまで単純な手を繰り出してくるとは思えない。

 しかし何か他に一工夫があるかとそういうわけではなく、第一陣の一千五百以外に動いている兵はいない。

  セオリー通りならばこれはチャンスだ。

  囲い手にしろ飛び道具、遠距離創術で横っ腹を狙うにしろ容易く殲滅する手はある。

  いや突撃される前に遠距離創術を一斉掃射するのが最も効果的だろう。


  「術式一斉解放、撃って撃って撃ちまくれ!」


 そしてエイリュウ軍千五百の攻勢に備える熾炎隊が、況してやその将がスレイならばタイミングを逸することはない。

  まだ前列がぶつかるまでいくらか距離がある。

  故に遠距離攻撃が放たれる前に突撃が成功することなく、飛来する鉄砲水、礫、炎、矢がエイリュウ軍を殲滅させようと迫った。

  だが、


  「何!?」

 

  それらは突撃するエイリュウ軍にぶつかる寸前で掻き消える。

  鉄砲水は蒸発したかのように、礫は砕け散り、炎はまるで蜃気楼のように、全てが掻き消える。

  そして矢のみが数十本程度エイリュウ軍へと申し訳程度に降り注いだ。

  スレイも驚きの声をあげる。

 

  「くっ、やはりか……想定内だ。決して圧倒されるなよ、急ぎ前に壁を作り、厚みを増していけ!」


  しかしすぐに我を取り戻し、迎撃の指示を出した。

  兵達も多少どよめいていたものの、早く意識を切り替えてその指示に従う。

  スレイも他の兵達も事前情報としてそうなることを知っていたのだ。

  エイリュウ軍は数多の勝ち星を重ねてきた強軍であり、その戦術は一貫している。

  故にこそ、その情報は方々に漏れており、熾炎隊にも筒抜けだ。

 ならば対策をとるのも当然だろう。

 しかし裏を返せば今まで対策を練られていながらも勝利を重ね続けたわけでもある。


  「やっぱりバレちまってるか」


 突撃している部隊のど真ん中という間違いなくこの戦場の中で最も死に近い場所。

  そこにいてもなお戦術が看破されていることに苦笑しつつ獰猛に笑う程の胆力をみせる男が一人。

 その者は兵の波よりさらに加速し群を抜いて単身で吶喊する。

  圧倒的な武の気を衣のように纏い、皮兜の下から覗く眼光が狩るべき獲物を前にして一際鋭くなる。

 

「先頭を走るあの男が敵将エイリュウだ!討ち取れぇぇぇぇ!」


  目を疑うようだがその者こそがエイリュウ・レイダムだ。

  それ程の異彩を放つ存在はこの戦場に彼一人しかいない。

  最初の突撃の先頭を総大将が駆けるなど無謀も良いところだ。

  何故ならエイリュウさえ倒せば熾炎隊の勝利なのだから。

  それを狙い数人飛び出して彼に襲いかかり、その背後ではもし抜かれた時の為に兵が盾を構えて壁を作っている。

  襲い来る数人を倒すだけでは背後の壁に勢いを止められてそこを狩られるし、例え壁も抜いたとしても中途半端な勢いではどのみち止められて狩られる。

  そんな状況を練られているというのに彼は口元の笑みを崩さずに走りながらも素早く腰から剣を抜く。

  そして現れた得物はくの字にそり曲がった片手曲剣だった。

  刀身が太陽の光を反射して眩く輝く。

  透き通るような美しい刃は常日頃から手入れを怠ることなく磨き上げられ、剣そのものも業物だと一目でわかる。

  その美しさに熾炎隊の兵が一瞬意識を奪われるのをみてエイリュウは口元に笑みを浮かべ、


「暴れるぞ、白嵐はくらん


 彼は愛刀に囁きかけ、地を踏みしめる。


  「——!!」


「ぐっ!?」


「がっ!?」


「「「「「ッッッ!!?」」」」」


  次の瞬間エイリュウの姿が掻き消え、同時に襲い掛かった数名が血を流して倒れた。

 そして厚くした壁も一気に吹き飛び四散する。

  息を吐くだけで一切の声を放つことなく、一瞬で全ての防御が破壊された。


  「なっ!?」


  待ち構える熾炎隊の中間で岩の踏み台を作り、その様子を眺めていたスレイは再三驚きの声をあげる。

 

「シッ」


「ぎっ!?」


「ぐっ!?」


「っっ!?」


  しかしエイリュウの死の舞踏が止まることはない。

 何度も姿を消して——否掻き消えて見えるほどに高速に動いて兵を斬り続けているのだ。

  その一方的な攻勢で開始から一分と経っていないのに彼が斬った人数は既に二百を超えている。

  真っ直ぐに突き進むのではなく、最初の一撃で壁を壊し、その陣の傷口を広げるように弧を描いて斬り拓いていた。


 故に短時間でそれほど被害は広がっている。

  はやくも圧倒的な力を前にして恐怖に慄き動けぬ者が多く現れ始め、一方的な虐殺となっていた。

 たまに勇ましくーーあるいは投げやりになって立ち向かう者がいても等しく何もできず刈り取られる。

 またエイリュウ一人では倒しきれず斬り漏らした弱った熾炎隊の兵達をエイリュウに続いてきた兵達が討ち取っていく。

 その結果両軍の兵数差は開く一方だ。

 エイリュウの勢いは止まることなくかつその軍はいまだに被害が全くないというのが恐ろしい。

 さらに最初に突撃した軍が薄く横に展開を始め、その勢いのまま殲滅戦を仕掛けようとしていた。

 このままいけば熾炎隊の第一陣が壊滅し敗北してゆくのは必至だ。

 しかしそれを黙って見送るほど熾炎隊も戦歴が浅くはない。


「させるか!」


 土壁が無双を続けるエイリュウの進路を阻むように展開され、動きを止めたところに刃渡り一メートル半ほどの大剣が上から振り下ろされる。

 突然の襲撃だが彼は慌てることなく冷静に背後へと跳躍して避け、大剣はそのまま大地を割り砕き砂埃をたてる。

 まともに受けるのはもちろんかすり傷でも無事にすまない一撃だ。

 いや例え避けれたとしても飛び散った岩の破片に当たれば深手を負いかねない。


「思い切ったことやるな。あんたが第一陣の将か?」


 しかしエイリュウはその渾身の一撃を目の当たりにしても全く動じることなく、難なく跳躍から着地して挑発的な笑みを浮かべる。

 不意を突いた奇襲のつもりだったのだが、彼は全て察知していたようだ。

 

  「そうだ。まぁ将といってもこの一陣を束ねる指揮官ってだけだがな」


 底が知れないほどの力と器量をみせるエイリュウに相対しても銅色の軽鎧に全身を包んだスレイは肩をすくめてみせた。


「けどあんたは違うんだろ?《闘極者とうきょくしゃ》エイリュウ・レイダム」


  そしてその身を半分以上覆い隠せる程の大剣を正面のエイリュウへ向け、スレイ——熾炎隊第一陣の将スレイ・デイルもまた挑発的に笑う。

  最後に相手の名を二つ名も含めて示したのは情報は全て把握済みだと明言し、それでも良いならかかって来いと暗に告げるため。

 また自軍を立て直すための時間稼ぎでもある。


「はっ、こちとら名が売れているのにも慣れちまったんでな。今更その程度で止まる俺じゃないぜ」


 しかしエイリュウはそれら全てを見抜き、挑発を堂々と跳ね返して再び剣を構える。

 皮兜の合間から放たれる眼光が一際苛烈な光を放った。

  『闘極者』——その二つ名は文字通り闘いを極めた者という意味だ。

  創術を抜きにした白兵戦では彼に勝てる者がいないと認められた証である。

  先程易々と陣を破壊したことや対峙しているだけでもそれが嘘偽りでないと思える。

  故にスレイも腹をくくった。

 背後には土壁があり、退くこともできない状況というのにライトブラウンの瞳に宿る強き意志力を揺らがすことなく、眼前の敵を射抜く。

 そして大剣を水平に構えた。


「そうか、ならば意地でも止めてやる。」 

 

「やってみろ」


 短い言葉で敵意を交し合う。

 名乗りはしない。

  刃を交えておらず、互いのことを何一つ認めることもできないのだから当然だ。

  最初はただぶつかるのみ。


 故に両者は同時に地を蹴り駆け出した。

 スレイが展開した土壁で熾炎隊の兵は手出しできない。

 だが同様にエイリュウ軍の兵もまた熾烈な戦闘スタイルのエイリュウの足を引っ張る可能性がある故に手出しはできなかった。

 故に期せずして、そして早くも両軍の将の一騎討ちが始まった。





 ****************************



 それはスレイとエイリュウが一騎討ちを始めるよりも暫し前。


「敵軍の勢いは止まった、今よ!」


 スレイが土壁を使ってエイリュウの勢いを止めたのを確認し、熾炎隊の第二陣が包囲網を展開し始めていた。

 凛とした声音で号令をかけ、率いるのは熾炎隊首脳陣の紅一点、ユイン・レイラーである。

 しかしながらもしスレイが一瞬で討たれればーーいや短時間で討たれるだけでも包囲網が完成するには至らない。

 それどころか壊滅した第一陣を食い破られ、第二陣も大打撃を受けてしまうだろう。

 だがユインはそのリスクを承知の上で動いた。

 作戦とはいえあの『闘極者』エイリュウ・レイダムを相手取るのは分が悪いように思える。


 ーー第一陣は任せたわ。私達が包囲するまで負けんじゃないわよ、がさつ男……。


 しかし彼女はスレイが止めることに賭けた。

 表現こそ冷たいが、そこに込める感情は仲間を案じるもの。

 普段いがみ合っててもなんだかんだ信頼し合っているのである。

 とはいえやはりいつまで保つかもわからない。


「らああああ!!」


「——!!」


 ユインが包囲網を半分まで展開したところでスレイとエイリュウの重なる裂帛の呼気と同時に地を踏み割る音が聞こえてくる。


「始まったわ!急いで!」


 一騎討ちが始まったことを察し、ユインは声を張り上げる。


「おおおおおお!!」


 兵達も呼応し、エイリュウ軍の第一陣千五百を敵軍の背後のみ残して包囲にかかる。

 つまり左右から挟撃を仕掛けるわけだ。

 ユインは右に回り込む隊の中にいる。

 理由はエイリュウが熾炎隊第一陣に対してやや右寄りに突撃してきた故に、上手くやればユインも攻撃を加えて仕留められると考えたからだ。


「これは……気配が変わった?まさかーー」


 しかしその時ユインはエイリュウの一騎討ちを静観していた筈の敵軍に突然別の動きを感じて進軍の足を止めた。


「!!大変ですユイン様、敵軍が私たちの包囲に気付き兵を出してきました!」


 三秒ほど遅れて彼女の傍で感知兵(感知能力を有しており、戦況を俯瞰して伝える兵)がその嫌な気配の裏付けを示す。

  と同時に感知など使わなくとも敵軍の突撃場所がわかるような明白な変化が起きた。


「まさか、分断しにきているとでもいうの!?」


  「……どうやらその通りのようです。敵軍を包囲する為に分けた反対側にも同様の兵数が分断に動いてきてます!このままでは……」


  もしそのまま分断を許してしまえば、ユイン達は孤軍となり逆に包囲されてしまう。

  反対側の別働隊も同様であり、それは第二陣がバラバラに解体されてしまうことをも意味した。

  そうなってしまえば指揮系統はなくなり、全滅の憂き目にあってしまう。

  また助けようとしていた第一陣も同様の事態に陥り、もしどちらも敗れれば最早戦の趨勢までもが決まってしまう。

 確かにエイリュウの強大な力を度外視し、現状の盤面のみを俯瞰すればそれまでの盤面の進め方は正しい。

  だがそれは相手も読んで動いてこなかった場合に限るのだ。

  とはいえ既に起こってしまったことに歯噛みしても仕方ない。


  「くっ、まだよ!まだ分断された隊を繋ぎ止められるはずーー!?」


 その時フィン、と鋭く空気が震える音がユインの鼓膜を震わせた。

 と同時に彼女は本能的な恐怖を覚え、思考に至る前に地を蹴って横に跳んでいた。

 そして直前までいた場所を謎の衝撃波が通り過ぎていき、先程まで話していた感知兵を透過してその背後にいた複数の兵も同様に透過していく。


「ユイン様どうしたのですか?いえでも確かに何か通り過ぎていきましたね……何が起きたんでしょうか?」


  ユインが突然飛び退ったのと、何かが通り過ぎたことに感知兵が疑問符を浮かべる。


「なんだ?」


「??」


 またその正体不明の衝撃波が通った軌道上にいる他の兵達も首を傾げていた。


「何もない?いや微かだけれど鋭く濃密な殺気を感じたのに……」


 何事もない彼らの様子を見てユインは違和感を覚える。

  しかし次の瞬間、再びフィンと空気を裂く音が聞こえ——


  「ユイ……さ……ぁ」


 ユインの名を呼ぼうとしていた兵達の体が突然真っ二つに割れ、派手な血しぶきが飛び散る。

 彼らは断末魔すらあげることすらできず、何故死亡したのかすらわからないままただの屍となってしまった。


「何が……起きて……」


 それは当事者でないというだけでユインも同様だ。

 飛沫する血液が彼女の軽鎧を濡らし、その美貌を汚す。


 フィフィフィフィン


 しかし先程と同様の空気を鋭く裂く音は収まることなく連続して聞こえ、


「逃げて!!」


 同時に込められた殺気に反応してほとんど条件反射的に叫びながらユインが後方に飛び退る。

 だが多くの兵はどんな手段かもわからず真っ二つに両断された仲間の悲惨な姿を見て思考に空白が生まれ、彼女のように動くことができなかった。


 フィフィフィフィン


「「……ぁ」」


 そして如何なる状態であろうと戦場で思考を止め、隙を見せた者に待っている結末は一つ。

 再び死の刃が兵数人の肉体を瞬時に両断し、先程以上の血しぶきが地を朱に染め上げる。


 フィフィフィフィフィフィフィーー


 しかしまだ獲物を仕留め足りないとでもいうかのように、連続して襲い掛かってくる。


「くっ、もうさせないわ!」


 ユインは失った仲間を惜しむのは後回しにし、被害が広がらぬように声をあげるよりもこの斬撃を操る敵を討ち果たすべきと素早く決断する。

 腰から得物の直剣を抜き放ち、代わりに怒りを込めて叫びながら駆ける。

 既にユインは音から斬撃の軌道を感覚的ではあるが読んでおり、避けながら向かうことができた。

 だが他の兵はそうはいかない。

 彼女の背後で無数の悲鳴が聞こえた。

 今度の斬撃は軌道を飛んでからその空間を斬るまでのスピードが極端に短い。

 どうやらその時間はある程度操ることができるみたいだ。

 おそらく敵はこちらを混乱させるために敢えてタイミングをずらしたのだろう。

 その情報は大きい。

 だが今はなによりもこれ以上自由にさせないことが先決だ。


 ーー見えた!


 仲間の骸が転がる先、自軍と敵軍との合間に佇む対象を視認。


「やぁぁぁぁ!」


 凛と響く気合いとともに鋭い袈裟の斬撃を放つ。

 

  「シィ!!」


 敵も呼気を発し、斬撃を重ねてきた。


 ——ここ!初太刀で終わらせる!


  直前に白刃が黄色く眩い閃光を帯びる。

  ユインが持つのはただの剣ではない。

  創術を帯びた雷の創具だ。

 刃を交えることさえできればそこから通電させ、痺れさせることができる。

 故にこのままいけばある程度動きを封じることも可能だ。

  だからこそ敵が迎撃してくるこの瞬間を狙ったわけである。

  剣が交わるまで三秒とない。

  初太刀でアドバンテージを得られれば今まで通り先手を取り続けて完封することも可能だろう。

  そして——


  キン、と鋭い音を立てて刃がぶつかる。

 

 ——よし、これで……え?


  思惑通り敵は斬撃を刀身で受けてきた。

  だがユインの剣から敵の剣を通して電撃を走らせる手応えがなかった。

 何度かそのまま剣を撃ち合ったが、変わらず電撃が通ることはない。

  高速で斬り結ぶ中でも相対する女が持つ剣の刀身が通常の剣よりも浅黒く、不気味に——あるいは美しく黒光りする。

  昼まで一時間もないというのに、陽光を吸い込んで昏く妖しい輝いているように感じた。

  おそらく敵の得物も創具で何かしらのカラクリがあるのだろう。

  ならばこれから刃を重ねてゆく中で答えを出すのが最も手っ取り早い。

 そう割り切って困惑は後回しに、何度か火花を散らしてから背後に跳躍した。


 そうして初めて敵の容貌が明らかになる。

 女だ。切れ長で怜悧な光が宿った黒と青を混ぜたようなマゼンタブルーの双眸と青みがかった黒髪。

 動き易さ重視の深い黒の戦闘服が大人びたクールな顔立ちによく似合う。

 戦闘服から覗く浅黒く健康的な肢体が妙に艶めかしくもある。 

  総じて黒のイメージが強い。

  何物にも染まらない黒の女、一言で表すとその表現がしっくりくる。

 初撃を受けた地点では感じられなかったが近づくにつれて感じる鋭く研ぎ澄まされた殺意や隙のない立ち姿が只者でないと感じさせた。

 無意識に刷り込ませるほどに戦場の中を生きてきたのだとわかる。

 なのに外見年齢は二十ほどというのだから底が知れない。


「……あなたが先程の斬撃を放った敵将ね?」


 周りの仲間が大勢殺され、中には先程まで話していた感知兵のように特に親しく長年共に戦場を渡り歩いた戦友もいた。

 故に感情は荒ぶり激昂する寸前だったのだが、目の前の女の異様な存在感を間近にして冷静さを取り戻せた。

  しかし押し殺した殺意で声は震えてる。

  そして発した問いに対し相対する彼女は、


  「そう、防がれたのは驚いた。けど関係ない。あなたを討つ」


  顔色一つ変えず返してきた。

  驚いたと言いながら無表情で、そして最後は当たり前に可能なこととでもいうように。

 啖呵をきられるよりもよっぽど気に触れる。


  「それはこっちのセリフよ!」


 馬鹿にされたと感じて声高に敵意を示した。

 確かに綺麗な女性ではある。

  ユインが今まで出会った女性の中でも一二を争う程に美しいとも思う。

 だがその内面はユインが最も嫌いな女性のタイプだ。

 感情が希薄で言葉少なく、淡々と命を奪うーーそう一言交わしただけでもわかるその性格がどうしようもなく嫌い。

 故にもう話すことはないとばかりに剣を構えるユイン。

 スレイが時間を稼いでもいるのだ、一刻も早く決着をつけなくてはならない。


「なら隠している時も惜しい。最初から全力で早く終わらせる!」


  ユインは剣から左手を放して左腰にさしていた刃渡り一メートルほどの短剣を取り出す。

すると左手の短剣もまた右手の長剣と同じように明るく光り始めた。

そしてそれぞれから視覚化できるほどの電磁波が出て長短二つの剣が繋がる。

この創具の本来の姿で、ユインは長剣と短剣を同時に操る特異な二刀流を得意とする武将なのだ。


  「それはこっちのセリフ」


  相対する女の黒き剣も対抗するように一際妖しい光を放つ。

  二人が放つあまりに濃密な剣気に、周りの兵達は両軍共に割り込む思考を捨てる。

  無粋、というよりも足手まといになると思ったから。

  しかしだからといって壁で区切ったスレイと別次元のエイリュウの一騎討ちのように両軍が殺し合いを中断する理由はない。

  故に将二人が戦う空間を確保しつつ、周りの兵達も戦闘態勢に入る。


  ——そしてスレイとエイリュウに続いて、第二陣の両軍、両将が激しく苛烈な火花を散らした。


 


 


 


 


 

 


 


 































 









 


スレイ対エイリュウ


ユイン対キョーリン


アーヴィル軍第一陣が犠牲を出しながらもエイリュウ率いる第一陣を止め、アーヴィル軍第二陣が包囲しようと動いた。

だがエイリュウ軍第二陣がそれを読んでアーヴィル軍第二陣を急襲。


両軍兵数、エイリュウ軍兵数4900、アーヴィル軍3900。


現戦況、エイリュウ軍有利。



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