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運だけ男のハーレム・ライフ  作者: ブラック池田
1章
6/6

霊峰デル・バジェ①

 レベッカとパーティーを組んでもらい、佐々木昇はエルフの村に入った。

 樹齢数千年の世界樹と共生するエルフの村だ。

 佐々木昇は、村の中心にそびえ立つ世界樹を眺める。頂上の方は雲で擦れて見えない。どれほどの高さなのであろう。


「スカイツリーよりも高いなぁ」と佐々木昇は思わず感嘆の声を上げた。世界樹の太い枝の上に作られた木造の小屋がいくつも並んでいる。樹木には梯子がいくつも架けられ、枝と枝の間にはロープが張り巡らされ、木々の間を地面に降りることなく移動できるようになっている。

 

 普段であれば、多くのエルフがロープや梯子を使って行き交う日常生活を送っているはずである。しかし、そこにエルフの姿は見えない。まるで、廃棄された無人の村のようだった。


 人の姿が見えない異様さに佐々木昇は飲み込まれていた。心なしか、世界樹の葉の色も、黒く濁っている。


「仲間たちは、みんな寝込んでしまっている」とレベッカは低い声で言い「私は装備を整えてくる。一刻を争うからな」と言って木登りを始めた。そして、あっという間にビルの5、6階くらいの高さまで登った。流石はエルフだな、と佐々木昇は思う。


 せっかくエルフの村に来たのだし、観光したいという思いが佐々木昇に生まれる。アスパラトス・オンラインの開発スタッフもグラフィックには拘っており、それはそれで美しかったが、このリアルな世界と比べると、所詮は二次元の世界だと思わざるを得ない。


 俺も登ってみよう、と佐々木昇も樹木を登り始める。


 しかし、すぐに後悔をした。上へ上へと梯子を登って行くのは、肉体的にキツイ作業であった。そして、佐々木昇は下を見てしまったのだ。落ちたら死ぬ、という恐怖。丈夫に作られていると思われる梯子が急に頼りない存在のように思える。手が、足が滑ったら……と考えると恐ろしかった。


 なんとか、最下層のエルフの家がある場所までついた。しかし、太枝の上を歩くのも恐ろしい。転落防止用の柵などもないし、手すりなどもない。また、枝は、ゴツゴツしていて平坦ではなく、歩くのに神経を使う。転んだら、そのまま落下する……という恐怖。

 高所恐怖症の人だったら、絶対来ること無理だなと強く思う。

 

 佐々木昇は、武器屋の看板が吊り下げられた小屋へと入った。エルフの集落の特徴として、世界樹の上に行けばいくほど、聖域となる。よって、エルフ以外の種族が世界樹の高いところに登ることをエルフは嫌がる。武器防具、道具などが販売されるところは、世界樹のもっとも低い場所にあるのだ。


「どうせだったら、根本で販売してくれよな」と、佐々木昇は愚痴る。しかし、その愚痴は、そういう設定を作ったアスパラトス・オンラインの開発スタッフへ向けるべきなのか、それともエルフに向けるべきなのか、すでに佐々木昇には分からなかった。


 いくつもの弓や矢が、店内に陳列されている。芸術品としても価値のありそうな日本式の弓矢、ボウガン。ゲーム序盤、いや中盤でも手に入れることが難しい。


「やっぱり、高いな」と無人の店内に揃えられている弓を見ながら思う。材料が世界樹の枝で、加護付きの弓矢は、当然のごとく破格の値がつく。一番奥に陳列されている梓弓あずさゆみなど、「世界樹の加護 + 風の加護」がついており、弓使いからしたら垂涎の品であろう。


 ステータス画面で自分の所持金を確認するが、到底足りる金額ではない。というか、佐々木昇の所持金は、ゲームスタート時の所持金であった。


「所持金、1,000Gとか……。何桁分足りないんだよ……」


 佐々木昇の心に悪魔が囁く。店員がいない今がチャンスなのではないか。レベッカの話からすると、店員も病気で寝ているはずだ……。


 店の商品を万引きする、というのは絶対ゲームの中ではシステム上できなかった。もし、これを盗めるとしたら、この世界はアスパラトス・オンラインの中からは一線を画しているのではないか、それを検証する絶好の機会ではないか……と佐々木昇の頭の中でもっともらしい言い訳が頭に浮かぶ。


 いや、人として駄目だろう……と佐々木昇は弓を元の場所に戻し、武器屋を出た。


「佐々木昇殿、こちらにいらしたか」とレベッカは、リスのように素早く枝から枝へと移り、佐々木昇の目の前に降りてきた。レベッカは着替えたのか、あの植物の蔦と葉で作った服から着替えていた。弓矢を背負い、細く白い足の魅力を十分に引き出す短パン、そして何かの植物を編みこんで作ったスポーツブラ。腰の細さが強調されたヘソだしのルックス。まさしくアスパラトス・オンラインにおけるエルフのスタンダードな恰好だった。


「ちょっと武器屋を見ていました」と佐々木昇はレベッカに言って、弓矢を盗まなくてよかった、と内心安堵した。危うく現行犯で捕まるところだった。


「今は、商売を出来る状況でもないからな。さて、私はこれからデル・バジェに向かう。世話になったな」とレベッカは一礼をした。

 エルフの村は、入るのは難しいが、出るのは簡単である。ただ、出口から出ればよい。ただ、一度出たら、エルフかエルフがいるパーティーに入るか、通行証を所持していなければ再び入ることはできないが……。


「1人で?」と佐々木昇は尋ねる。霊峰デル・バジェに行くのは、エルフの村で流行っている疫病の特効薬となる霊薬を採取しに行くということは明白だ。1人で霊峰を踏破し、山頂のみに生えている霊薬を集めるのは、さほど難しくない。しかし……ゲームとして当然のごとく、霊峰の山頂にはエリアボスが存在する。一応、ボスの攻撃をかわしながら霊薬を集めるということは可能な仕様になっていたが、肝心の霊薬の出現率は低く、ボスの攻撃を回避しながら採取するのは非効率で、はっきり言って、ボスを倒してからゆっくりと採取をするというのがプレイヤーの定石だ。もっとも、そのボスを倒すのが難しいから、エルフの通行証を取るイベントの難易度が高いのだけれど。


「今、エルフの村で動けるのは私しかいないからな」とため息交じりにレベッカは言った。

 

 エルフの村を出て、食人植物に捕獲されているこの娘が、無事に霊峰まで行って帰ってこれるのか、佐々木昇は不安になる。はっきり言って、あんな見るからに危なそうなショッキングミンクの色した食人植物に近づき、そして捕食されているあたり、センスがないように思える。森の狩人と名高いエルフに対してずいぶんと失礼だとは思うけれど……。


「よかったら、僕も行こうか?」と思わず佐々木昇は言ってしまった。困っている人を見過ごすことはできない、という感情から出た言葉だった。自分のステータスと装備を見る限り、霊峰に向かうのは無茶である。

 佐々木昇の装備は、上から、旅人の帽子、旅人の服、旅人のマント、旅人の靴。そして、武器は、旅人の杖である。アスパラトス・オンラインのプレイヤーが誰しもが持っているある意味で一番有名な装備。通称、旅人シリーズである。そしてこれは、ゲーム開始の初期装備であり、売却不可アイテムであり、最弱の装備であった。

 アスパラトス・オンラインの理論で言えば、目の前のレベッカの履いている靴の防御力の方が、旅人シリーズの防御力の合計よりも多いだろう。


 佐々木昇は、口からでた言葉を引っ込めることができるなら、引っ込めたくなっていた。

 レベッカが靴だけ履いて、上は全部全裸ってな装備よりも紙の防御力の俺が同行しても逆に迷惑だなぁ。下手なことを言ってしまった。ってか、靴だけ履いて後全裸って……。昨日の光景が目に焼き付いてるから、簡単に想像できてしまうよ……。


「命まで助けていただいて、さらに同行してくれるとは、かたじけない」というレベッカの発言を受けて、佐々木昇は妄想の世界から引き戻された。


「え?」


「なんとお礼を言って良いか分からぬ」とレベッカは目に涙を貯めて感動している。


 げ、今さらやっぱ辞めますって言えない雰囲気だ。美人の涙って破壊力半端ねぇ、と佐々木昇は思う。

 

「えっと、その、条件と言ってなんだけど、今の僕の装備だと、霊峰はキツイから、適当に店から装備もらっていい?」と佐々木昇は言った。同行すると言ってしまったのは自分だし、引くことはできないが、命大事だ。弱みに付け込んでいる感もあるけれど……。


 結果として、佐々木昇は、エルフの村で売られている武器防具の中では最高の品を手に入れた。

次回は、「霊峰デル・バジェ②」。


 じゃんけん、ぽん。


 

 ちょき



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