3.新しい朝
翌朝、目を覚ます。
今日は、なぜだか昨日とは違う気がした。
聞こえてくる音が昨日と違う。
隣の子供の声、犬の鳴き声、近所の人のおしゃべり。
確かに昨日と違う。
私は、新しい朝を迎えた喜びに浸っていた。
窓から見る、見慣れたはずの景色も輝いて見える。
新しい一日が始まった。
私は、広場に机と椅子を運び、魔法瓶のお茶を飲む。
昨日が終わり、新しい日が始まった喜びをかみしめる。
これで前に進めるのだ。
ふと広場の隅の方で、大きな声がした。
そちらを向くと、三人の男女がいた。
若い男、その隣には、華やかな装いの女性。
二人の前には、地味な服を着たおとなしそうな少女が立っていた。
「君とは、もう終わりだ。別れよう。
僕は、彼女と結婚する。」
少女は、何か言い返そうとしたが、言葉にならない。
やがて、若い男とその結婚相手は、少女を残し去っていった。
少女は、静かに泣いていた。
ふいに彼女の未来が見えた。
数分後、馬車の前にふらふらと飛び出す少女。
激しい衝突音、人々の叫び声。
赤いしみが道路に広がってゆく。
このまま放っておけば、彼女は馬車にひかれるだろう。
何とか引き止めなければ。
「ちょっと待って!」
わたしは、ふらりと歩き出した少女に駆け寄り、彼女の腕をそっとつかむ。
「良かったら、お茶でも飲んでいきませんか?」
「え?......。」
戸惑う彼女をよそに、少し強引に椅子に座らせる。
「今日は、お茶をたくさん持ってきたの。
良かったら、飲んで行ってください。」
少女はぼんやりとした様子で、言われるままに魔法瓶から注がれたお茶のカップを受け取る。
少女はしばらく黙っていたが、やがてぽつりぽつりと話し出した。
幼馴染だった彼とは、いつか結婚すると思っていたこと。
最近になって冷たくなったこと。
そして今日別れを告げられたこと。
私は、黙って彼女の話を聞いた。
話し終えるころには、彼女も少し落ち着いて、憑き物が落ちたような顔をしていた。
私は、彼女の未来をもう一度見た。
数十年後の未来。
彼女は、白髪の老婦人になっていた。
小さな男の子の手を引いて、庭を歩いている。
隣には、穏やかに笑う夫らしき人がいた。
幸せそうだ。
「今は辛いでしょう。
でも大丈夫。
数十年後、あなたはとても幸せになっています。」
少女は、涙にぬれた顔で私を見た。
「占いですか?」
「ええ。」
「いつもは、占いなんて信じていないんです。
でも今日は、ちょっとだけ信じてみます。」
少女は、カップを置き、立ち上がった。
ほんの少し、照れたように笑い、立ち去っていく。
私は、空を見上げつぶやく。
「先払いの占いの見料分は、仕事しましたよ。」
この街の神様は、案外下々のことまで見ているらしい。
広場のさざめきが心地よい。
明日もきっといい日だ。




