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冒険者をバカにしてはダメですよ!

レイトさんの初依頼はトリガーの皆さんのおかげで、なんとか上手く乗り切ったらしい。薬草を採取した冒険者や栽培農家からか、買い取ったものを薬草ギルドが管理仕分けしている。

仕分けされた薬草を調剤をしている薬師や医師たちに届けるのを手伝ったり、配送中の護衛をすることが今回の仕事。月に何度か依頼があり、比較的安全な仕事になる。


しかし薬草は高価なものもあり、時々強奪されることがある。相手が魔物や魔獣ではなく人間だけど、悪いことを平気でする人の中には、他人の命を問わない人もいる。そんな時のための護衛だ。人間相手に戦うことが気弱なレイトさんにできるか心配だったが、流石実技はトップ合格者。強盗相手に怯むことなく、次々と武器を奪ったり、逃げ道を塞いで憲兵に引き渡したらしい。


「レイトの剣、すごかったねー。オレやダンと違ってちゃんと騎士っぽい感じでかっこよかったー。」

「そうそう、なんか普段はキョドッてる感じだけど、強盗相手になると、なんか紳士っていうか、騎士っていうかー。」

依頼最終日の打ち上げで、トリガーの面々に褒められているレイトさんは、照れまくっていつにもましてオドオドしていたらしい。


そんなこんなで、トリガーが受けた依頼を順調にこなしてきたある日。

普段寄り付かないような、高貴な服を纏った紳士がギルドの扉を開けた。

「ここに、トリガーという冒険者はいるか?」

いかにも身分が高そうな男性の登場に、職員の1人がジルさんを呼びに行った。

ジルさんは、男性を上階の応接室に案内し、まずは用件をうかがうことにした。

「セリちゃん、お茶出しながら様子を見てきたよ。」

先輩のリシィさんに言われ、渋々応接室へ行く。


お茶を出して退室すると、扉の外で休憩中で噂好きの受付嬢たちが、様子をうかがっていた。

「何してるんですか?」と、小声で尋ねると、口を塞がれ扉から少し離れたところに連れて行かれた。

「何者なの、あのおじさん。」

「なんでも、貴族お抱えの医師らしいですよ。」

2人の話の流れから、それだけを答える。

「それだけ?だってトリガー名指してこんなところに怒鳴り込んできたんでしょ。」

「んー、この前の薬草ギルドの依頼の件らしいですが。」


まもなく、トリガーの6人が別依頼を受けに現れると、代表でアークさんと一応貴族出身のレイトさんが、応接室に呼ばれた。


しばらくすると

「はあ?あんたオレら疑ってんの?オレたちは護衛と運ぶの手伝っただけだけど!」

という、アークさんの大声が、下の階まで聞こえてきた。そして

「ばっかじゃん!自分でミスしたくせに、運んだオレたちに責任押し付けんなってんだ!だいたい、オレら毒も薬草もわっかんねーよ!」

扉を開けながらアークさんが叫んだので、ギルド内にいた、他の冒険者にまで声が聞こえてきた。


いや、それは半分はウソだ。一応冒険者は回復薬がなくたった時や、回復師の魔力が枯渇した時のために、ある程度は資格試験で勉強している。

しかし彼らには薬草ギルドの薬草に、毒草を混ぜるような意味はない。

「どうせ薬草欲しさに、バイフの代わりにアイゼでも入れ替えたのだろう。」

そういう医師の声も聞こえる。


バイフとは前世のよもぎのことで、アイゼはトリカブトだ。確かに前世でもよもぎとトリカブトの葉は似ているので、採取をする時は注意するように、ということはよく聞いていた。

しかしよもぎの効能を考えると、トリガーが欲する意図がわからない。


「あのー、お話中すみません。」

恐る恐る、わたしは部屋の中へ入って、アークさんを中へうながし後ろ手に扉を閉めた。

「なんだね、君は。」

睨みつける医師に、ジルさんがわたしの名と祖父の名を告げる。すると、わたしの身分はともかく、祖父の威光で話を聞いてくれる気になったらしい。


「毒というのは、どういうことでしょうか。」

「先日、コイツらが薬草ギルドから運んできた薬を処方した妊婦が、逆に具合が悪くなり、流産しそうになった。」

医師は苦々しい顔で語り始めた。

「その女性は子爵家のご令嬢で、以前から体が冷えやすくバイフを処方していた。」

「しかし、処方する以前にバイフとアイゼでは、形は似ていても、香りや葉の裏がちがいますよね?バイフは葉の裏に産毛がありますが、アイゼにはありません。処方する前に気づくのでは?」

わたしは医師の初歩的なミスでは?と思い逆に質問をした。

「それに、バイフに含まれる成分には子宮を収縮させてしまうという副作用があるので、妊婦さんにはあまり飲ませない方が良いと思うのですが‥。」

わたしがそう返すと、医師の目が大きく見開かれて、凝視した。

「なぜ、お前は医師でもないのにそんな判断ができるのだ。」

医師が言うと、

「アルカナ様はご存じなのでは?」

と前にいたジルさんが、返した。

わたしは黙ってうなづいたが、いくら最高賢者の祖父でも、そんなことは知らないと思う。わたしが知っているのは賢者の孫ではなくて、前世が家庭科の教師だからだよ!と心の中でつぶやいた。


「そうだよとセリナはオレのダンジョン呪い?迷宮呪い?だって、えっと、血が壊れる?病気?で野菜の中のビタミン?がないと、なるって見抜いて、助けてくれたんだ!」

とアークさんが途中まではたどたどしかったけれど、最後は自信満々に大声で言う。

「今は野菜たっくさん食べてるから、すっかり元気だぜ!」


医師はバカな、とでも言いたそうな顔で、そんな食事ごときで、大病が治るはずがない。と小声で呟いている。

あー、明治時代の日本の医者だねー。脚気は感染症だなんて、バカなことを言っていた医師たちと同じだ。


「そういうドクターも、バイフを処方していたとおっしゃいましたよね?バイフは薬草ですが、お菓子に入れると美味しいんですよ!」

だから食べ物だとわたしは言った。

「大体、私たちの体は食べ物で作られているんです。食べるものは食べ方や、食べる人によって毒にも薬にもなります。パンを作る小麦だって食べ過ぎれば、セリアック病という病気になります。」


医師は、完全に納得したというわけではないが、アルカナの教えで?バイフことよもぎは妊婦には毒になるということだけは、なんとなく理解してくれた。セリアック病やビタミンのことはスルーしてくれた。きっとこの世界の医師は知らない名だ。

フフン。わたしの方が詳しいだろう!


これで、アークさんたちトリガーの疑いは晴れた。しかし、あの医師はなぜ他の人、例えば患者や薬草ギルドではなく、冒険者を疑ったのか。わたしはそれが一番腑に落ちなかった。

アークさんとレイトさんがジルさんとドクターから解放され、わたしと部屋を退室するように言われたが、なんとなくそのモヤモヤが、頭から離れなかった。


そう、あのドクターはわたしが前世で、家庭科は受験科目じゃないとバカにしていた、数学や英語といった主要5教科の教員に似ていたのだ。つまり、彼は冒険者という身分の彼らをバカにしていたのだ。身分や職業で決めつけるなんて!

それを思い出すと、部屋を退室する間際に後ろを振り向き、医師に向かって

「冒険者をバカにしてはダメですよ!」

と、低い声で告げ、2人の後に続いた。




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