コミュニケーション取らないとダメですよ!
冒険者資格試験の早朝。ギルドの職員はもちろん、試験監督となる元Aランク以上の冒険者や、現在Sランクの冒険者たちが王都のセントラルセンターにやってきた。
国の冒険者たちを束ねる、国土防衛官長が挨拶をし、それぞれが試験会場に散る。わたしたち受付嬢は筆記試験の試験監督で、ベテラン職員とジルさんや一部の元冒険者は面接官。わたしたちは、センターの建物内の、割り当てられた部屋に急ぐ。元Aランク以上の冒険者と白狼たちSランクの冒険者たちは、センター中央にある広場で実技試験だ。
受験生は、まず全員が一斉に筆記試験を受ける。筆記試験が終わると二手に分かれて、面接と実技試験になる。面接と実技試験の間、わたしたちは、筆記試験の採点をしている。
採点をしている間は、みんな無言のまま、間違いや不正がないよう、黙々とと点数をつけていく。筆記試験はほぼ選択問題なので、採点は簡単だけど、字があまりにも汚いと、採点官の上司に判断を仰ぐことになる。
正直、冒険者になりたい人の中で、字がきれいな人は少ない。字がきれいなら、最初から事務仕事を目指しているだろう。
その中で、やたらと字がきちんとしていて、しかもほぼ満点、18歳の学院卒という受験生がいた。番号は504番。まず、18歳で学院を卒業という時点で、かなり優秀ということがわかる。一般の人は15歳から16歳で入学し、卒業は早くて19歳になる。
採点が終わったあと、受付嬢たちの間で、なぜ冒険者に?という疑問と興味が湧いた。
504番の受験生は、面接こそイマイチだったようだが、実技もオールAで合格した。格闘のほか剣技、魔法とオールマイティにできる人らしい。しかも辺境伯の三男。学院卒なら冒険者よりも、騎士団の方がいいのではないかという逸材だ。
面接がイマイチだったのは、どうも思考が斜め上の返答が多く、みんな理解不能だったということだ。それは俗に言う、不思議くんではないだろうか。
そんな彼の返答を、試験監督たちは頭が良すぎて、こちらでは理解ができないのかもしれない、ということで片付けたということだ。
しかし、それではどこの冒険者パーティにも入れてもらえないのではないだろうか。大丈夫か?
コミュニケーションは、グループ活動で最も重要視されること。ソロで活動できるのは、かなり下位の依頼くらいで、Dランクを超えたら最低でも3人は必要とされている。勇者の白狼だって、普段ソロで活動はしていない。
「お疲れ様ー」
「お疲れ様でした。」
「今日は、ありがとうございました。」
「遅くまでご苦労様でした。」
合格者が決まり、発表の準備ができると、みんなは会場を出て解散となる。
帰り道、
「セリちゃん、セリちゃん。504番の人見た?」
先輩のルリアさんと、勇者パーティのミリカさんから声をかけられる。
「いいえ、採点はしましたが。」
「実技、めっちゃ強かった!魔法もかなりのレベルだったよ!すぐにでもうちのパーティーに欲しいくらい。」
ミリカさんが興奮気味に話しかけてきた。
しかしルリアさんは
「あー、でもねーなんだろう。言っていることが謎すぎてよくわかんない。冒険者になった動機も、迷宮の中に異世界への扉があるかもーとか。騎士団は戦争の道具にされるかもしれない、とか。魔法を学んでいるのも、もっと清潔なトイレを作りたいから、とか。」
「そんなことで、野営できるの?冒険者、野営絶対だよ。どこの冒険者に入ってもやっていけないよー。」
ミリカさんとルリアさんの2人は、笑いながらそんな話をしていた。
しかしわたしは、もしかしてという考えが頭の中に浮かぶ。そう、わたしも前世の記憶が蘇った時、一番に悩んだのはトイレとお風呂だった。
元々前世のトイレは世界一と呼ばれるほど、きれいで清潔なことが当たり前だった。この世界のトイレ事情は、前世でいう未開の土地並み。まるで江戸時代。
もし、504番の人も前世にわたしと同じ日本での記憶があるなら、言っていることがわかるかもしれない。あったみたい。
早く合格発表を見にギルドに来ないかな。
少しワクワクしながら、2日後の合格発表を迎えた。
合格率5倍、合格者数18人が、翌々日ギルドに集まった。元冒険者の弟子だった人たちの多くは、すでに仲間で固まって、ワイワイやっている。1人の人も、お互い声を掛け合って仲間を作ろうとしている。
しかし、みんなが思った通り、504番の人は1人ポツンと立ちすくんでいる。周りはトップ合格というのもあり、仲間に入れたくて様子を見ているのに、声をかけようとすると、サッと顔を背けたり、逃げたりしている。挙句の果てに、説明をするためにその中にいた受付嬢のわたしの背中に隠れた。
えーっ!?もしかしてこの人、不思議くんな上にコミュ障?
そこで、少しだけ後ろを向きながら小さな声で
「あの、みなさんとコミュニケーション取らないと、ダメですよ。」
と囁くように声をかけた。




