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肉だけ食べてはダメですよ!

高校の家庭科教師、芦川頼子はテストに実技の提出物700人分の採点が終わった学年末、深い眠りに落ち、目覚めた時は何故かギルドの受付嬢になっていた。

健康、ファッション、働き方、男女平等、介護に育児と家庭科理論を駆使し、なんの知識もない世界で、冒険者や働く人たちの生活改善を目指す!

学年末の成績をつけ終わり、ホッとした私、芦川頼子はそのまま職場のパソコンをシャットダウンし目をとじた。

知らないうちに眠ってしまったのか、いつもとは違う方角へ行く電車の中で目が覚める。

「やばい」と思い止まった駅を見たら知らない名前。ただ、隣のホームに最終の大宮行きが見えたので、慌てて乗り換えた。

ホッとしたのだけれど、いつもと何かが違う。まず、一番後ろの座席がなぜかバスのように横長になっていて、その上にクッションに寝そべるウサギや、見たこともない服の男性が乗っている。

南浦和を過ぎた頃には雪になり、窓の外は田園風景。炭焼きをしている家がある。


「ちょっと、セリったらなに寝ボケてるの!」

隣に座る先輩の声で、突然意識が戻る。目の前には長蛇の列と、大声で笑う厳つい風貌の人々。

「ハッ、すみません。次の方どうぞ!」

「いいよ、いいよセリちゃん。昨夜も徹夜だったんだろー?」

ウ、優しい〜。冒険者の皆さんは受付嬢にはみんな優しい!

??受付嬢??えっ?私はたしか、高校の教師だったような?えっ?えっ?えーっっ!?

その時。

「誰かー、誰か回復魔法のすごいやつ、助けてくれ!」

若い男性が、2人の冒険者に担がれてギルドの中に飛び込んできた。男性の腕には複数青痣のようなものも見える。

「血をずっと吐いていて、昨日から止まらないんだ!」


「あれって、ダンジョン呪いじゃね?」


近くにいた冒険者の何人かが呟く。

ダンジョン呪い?

「あの、ダンジョンの中って食事とかどうしているんですか?」

私は恐る恐る、近くにいた冒険者に尋ねた。

「そりゃ、酒と干し肉とまぁー硬いパンだなー。」

私はそれを聞き、近くにあったオレンジのような果物を掴むとすぐ、支えられて血を吐く男性の口の中に果汁を流し込んだ。

呆然とする周囲の人々。

しかし、しばらくすると出血が止まり、支えられていた人の顔色も少しだけ良くなってきた。

えっ?あれ?

すごくね?

治した?

と言った小さな声の後、

「「「うおーっ!!!!!」」」と、壁わ揺らすような雄叫びがギルド中に轟く。

さらに、男性が1人で立ち上がると、歓声が高まり耳をふさがずにはいられなほどの騒ぎになった。

「なに?なに?セリは回復魔法使えたの?」

「セリちゃんすげ〜!!」

「王都の回復師だって治せなかったんだぜ!」

いや、ただの壊血病だから、と頭の中で突っ込んだものの、もしかしたら、この世界にはそういった知識のある人がいないのかも。

「あの、もしかして野菜とか果物、嫌いですか?」

私は立ち上がった男性に尋ねる。

彼は体調の回復に驚きながらも、大きくうなづいた。

「ありがとう。ありがとう、あなたのおかげだ。どうして野菜嫌いとわかったのだ?」

「だって、あなたの症状は壊血病ですから。」

「かいけつびょう?」

「そう。壊血病です。血が壊れる病気です。」

「「「血が壊れるー⁈」」」

再び、怒声が轟きわたり、わたしは耳を塞いだ。

(うるさい〜、しょうもないクラスの男子よりうるさい〜!)


その時、奥の扉が開き

「うるせーっ!!」という雄叫びすらも消し去るような声が轟いた。すると、あれだけの大騒ぎが一瞬にしてシーンと静まり返った。

「あ、ジルさん!」

「ギルマス!」

ちょっとだけ強面のマッチョな青年が現れると、室内が急にシーンと静まり返る。

「ちょっとセリナ、とそこの、なんだっけ?」

「あ、アークです。」

「あー、駆け出し冒険者のアークかー。ちょっと一緒に上まで来い。」

階段を上がる時、まだアークさんは辛そうだ。それはそうだ、出血が止まってもまだ血は足りなくなっているだろう。ふらつく彼のうでを支えてわたしは小さな声で、コソっとささやいた。

「肉だけでは、血管を丈夫にはできないんです。肉だけ食べてはダメですよ。」


ふらつくアークさんを支えながらやっとのことで2階に上がると、ギルドマスター?のジルさんが頭をかきながら待っていた。

「わりーわりー、死にそうだったんだなー。さっきのはやっぱり、回復魔法じゃなかったんだ。」

そう言いながら、フラフラのアークさんと、ゼーハーしながらエスカレーター、エレベーターはどこ?と呟くわたしの頭の上に手をかざす。

すると、アークさんなの顔色が幾分か良くなり、わたしの呼吸も落ちついた。

あ、今のが回復魔法?

少し落ち着いた私たちは、階段横にある扉から応接室らしい部屋に通された。

「で?回復魔法でないなら、さっきのはなんだ?」

私たちがソファーに座ると、早速ジルさんの低く威圧するような声がした。


何を、どう説明して良いのかわからないわたしは、隣に座るアークさんの顔を見る。アークさんは、イヤ、見られても困る、と言いそうな顔を返してきた。

それはそうだ。つい先程まで死にかけていたのだから。

とにかく、考えろ、考えろ、考えろ!これでも高校教師だろ!と、自分を叱咤激励したが、何も思いつかない。

んー、あれ?夢の続きかな?などと、もう一人のわたしの声がする、が、どうもそれは逃避に近いような‥。散々、家庭科のライフプランの課題で、異世界転生はない!と、叫んでいたのは誰だっけ?

今いるのって、まさに異世界?わたし転生した?

て、ことは?ちょっと待って、と思い切り頬をつねったら、アークさんがぎょっとした。ジルさんは眉間に皺を寄せてる。

「何をしている?」

と聞かれたので、とりあえず深呼吸して立ち上がり

「初めまして。わたくし、城智大学附属高校教諭の芦川頼子と申します。」

と自己紹介をしてみた。あ、名刺がない!





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