【俺たちの幸せ】
俺が目を覚ますとリリアンはホッとしたという顔をして涙を浮かべていた。
周りにはエディと俺の従兄妹……アビー・ドライデンがいた。エディなんかは俺よりも重傷な筈なのに松葉杖をつきながらもピンピンしている。なぜだ。
「リリアンが無事でよかった……」
「私が無事でもあなたが無事じゃなきゃ意味がないの……!でも、目が覚めて本当に良かった……」
エディとアビーは顔を見合わせて肩をすくめていた。それにハッとして、んんっと咳払いして改めて二人の方へ顔を向ける。
「……二人ともお見舞いに来てくれてありがとう。特にロニーには助けられた。後で礼の品を楽しみにしておいてくれ」
「気にしなくていいのに、と言っても送ってくるでしょうから楽しみにしておくわ」
「僕もロニー辺境伯より頑張ったから休暇をください、一ヶ月でいいですからね」
「エディ、あなたね……」
「いいじゃないかアビー、これくらい許されたって。ほら僕は怪我人だからどうせ何も出来ないし」
「……それもそうだな。治るまで休みでいいだろう。羽根を伸ばしてこい」
「わあ!ありがとう兄さん。信じてたよ」
「あなたもあなたで甘やかしすぎよ……まあ元気そうで良かったわ。今度は夫婦二人で、ドライデン辺境伯領へいらっしゃい。歓迎するわ」
「えー僕は?」
「あなた無駄にロニーに張り合うから嫌です……なんて本当にそろそろお暇するわね」
「じゃあまた一ヶ月後にね、兄さんと義姉さん」
一通り喋ったあと二人は退室した。嵐が過ぎ去ったかのような静けさが部屋を包む。沈黙を破ったのはテッドだった。
「……いつの間に義姉さんなんて呼ばれるようになったんだ?」
「テッドが寝てる三日間の間にね、仲良くなったの」
「そうか……三日間も寝ていたのか」
「心配したんだから」
「すまない……」
「ううん、謝らなきゃいけないのはこっち。怪我させてしまってごめんなさい、そして庇ってくれてありがとう」
リリアンはおどけたように明るい声で話したが、目の下には隈があって眠りが浅いことがわかった。
「それにね。ロニー様がエディの知り合いの腕利きの薬屋さんが来てくれて、そこまで重傷じゃないってわかったの」
「ロニーが?エディにそんな知り合いがいたのか、知らなかった」
「エディと仲が良さそうだったわ」
「へえ……」
「それにエディったらあなたより怪我が酷かったのにすぐに目を覚ましたの」
「ふーん……?」
エディに関して知らないことが多かったのも気にかかったが、それ以上にリリアンがエディに三日間の間に詳しくなっていることがなんだか気に食わなかった。俺なんか呼び捨てにされるまで長い時間をかけたのにエディは三日間で呼び捨てにされているのも気に食わない。恥ずかしいので言えないが。
「どうしたの?眉間に皺が寄ってる」
「別に……」
「もしかして嫉妬してる?」
図星だったので顔をリリアンからズラした。目を合わせると気まずいのだ。
「心配しなくてもあなたしか見ていないのに」
「別に嫉妬していない」
「じゃあこっちを見て?」
「……」
このまま抵抗していてもしょうがない。意を決してリリアンを見た。リリアンの金色の瞳が俺をまっすぐ見つめる。俺はリリアンの顔に手を伸ばして目の下の隈をそっと親指で撫でた。リリアンは目をつむった。
「テッドと出会えて良かった。あの襲撃があったとき、本当はやっと死ねると思ったの。一人でまた残るのは嫌だったから……でもあなたが目が覚めたから、一人じゃないから。もっと頑張って生きてみようと思えた。だから感謝してる」
「リリアン……」
あのとき、俺が死んでいたらリリアンの心にまた深い傷をつけることになったんだろう。エディがいたから、ロニーがたまたま来たから。色々なことが積み重なって今に至る。多分そこに幸運とか不幸だとか関係なくて。今回の件も見方によっては生き残って幸運だと言えるし、襲撃にあって不幸だとも言える。
リリアンと出会ってから今まで俺にこびりついていた考え方が変わっていった。これからまた変わるかもしれないし変わらないかもしれない。リリアンと一緒なら乗り越えられる。
未来への希望が生まれた。
半年後
今日は待ちに待った結婚式の日だ。リリアンのウエディングドレス姿はとても綺麗で美しかった。俺はガチゴチに緊張してリリアンにクスクスと笑われてしまったが、リリアンも緊張して右手と右足を同時に出して歩いていたのを見ていたが黙っておく。
「リリアン、綺麗だ……」
「もう、それ今日で何回目?」
「だって綺麗だと思ったから……」
「……ありがとう」
エディが口を挟んでくることもない。だって今日は結婚式なのだ。存分に二人の時間を楽しんだ。そうこうしている内に結婚式が始まる時間に近づく。リリアンと別れて所定の位置に移動した。
結婚式が始まった。オーケストラが軽快な音楽を奏で、聖歌隊が祝福の歌を歌う。太陽の光が優しくステンドグラスを照らしている。
大勢の参加者が笑顔で俺たちの門出を祝ってくれた。
式はつつがなく進行し、神父が誓いの言葉を話しだした。
「病めるときも健やかなるときも死がふたりを分かつまでお互いを愛し合うと誓いますか?」
「はい」
「それでは誓いのキスを」
ゆっくりとベールをあげてリリアンを見る。ゆっくりとリリアンは目を閉じた。頬に手を添えて口づけをする。大勢の前で照れるが、リリアンを生涯愛することを皆の前で約束することが出来たので良しとする。
きっとこれからは不幸にも幸運にも縛られない、素晴らしい未来が待っている。
更に時は流れて数年後
リリアンがこちらの家に移り住んでから、庭の花を自分で選びたいと言うので一任した。デイジーと白いアネモネをメインで沢山植えていた。ウィンザー邸の豪奢な庭も素晴らしかったが、今の落ち着いて爽やかな庭も輝かしいと思う。
ウィンザー邸では隠すようにしていた花壇も今は見てほしいと言わんばかりに一面に広がっている。
そして俺たちの間には子どもが一人産まれた。玉のような女の子だ。産まれたばかりでまだ名前は決めていない。出産に立ち会ったときはあまりにも壮絶で、リリアンと我が子が無事で神に感謝した。
俺たちの子どもは目の色が金でリリアン似でかわいいと言ったら、鼻とか口は俺似だと返された。髪の色は茶色がいいな。リリアンの髪の色が好きだから。
我が子の将来に思いを馳せる。この子の未来も俺たちのように幸せになるといい。そのために努力を惜しまないことを心に誓った。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
ここで出てきたアビーは現在連載中の『吸血鬼の辺境伯と婚約破棄された私が幸せになるまで』の主人公です。そちらも完結出来るよう尽力致します。
誤字脱字あると思います。発見されましたら誤字脱字報告からお願い致します。