第一章 薬草と出会い
Ⅰ
魔女にされている魔法使いの名は、ソレイユと言った。
風にたなびく銀の髪は見る者すべてを魅了し、煌々と輝く太陽のような橙の瞳は見る者すべてを吸い寄せるようであった。
ただ、この魔法使い、基本的に引きこもりである。家から出てくることはほぼない。出てくる時は緊急性のある時だった。
薬草を取りに行かなければいけなかったり、買い物の必要性があったりするぐらいしか外には出ようとしなかったのである。
彼に尋ねてくるのは知人の魔法使いだけで、たまたま外に出て行く先で森の中を彷徨っている者がいれば気まぐれに声をかけて森の出口まで案内する。
基本的に過干渉はしないものの、ただ視界に入ったら助け舟を出す。それぐらいマイペースなところがあった。
ソレイユはその日、薬草を取りに久しぶりに外に出た。作りたい薬があったのだが、手元を確認してみれば必要な薬草が一つ欠けている。仕方なしとばかりに外出の予定を立てたのである。
眠たそうに一つ欠伸をして、戸締りの確認をしたらゆっくりと目的の地に向かって歩き始めた。
魔法を使って飛ぶことも簡単だ、何と言っても魔法使いだから。だが、基本的に省エネモードの彼は魔法を極力使いたくないと思っている。
魔法使いなのに。
そのため、彼はできるだけ歩けるところは歩いて行くようにしていた。その日もゆっくりと歩いて散策するつもりで歩き始めていた。
意外にもこの散策の時間は好きで、ソレイユは出かけると決めた日は時間をかけて歩いていることが多い。
友人だと言い張る知人からすれば、「魔法使いの名折れだ、なんだ」と騒ぎ立てるが、ソレイユからしたらそんなこと知ったことではなかった。
彼からしたら、「魔法使いだからと言って、魔法を使わなきゃいけない決まりなんてないでしょ」との言い分が出てくるのである。
何故、魔法使いになったのか、おそらく本人も知りたいはずだろう。
ソレイユはふむと頷きながら時折足を止めて道を確認して、再度歩き始める。歩きながら道端にある別の薬草を眺めながら、彼はゆっくりと進んでいった。
彼が今回探しているのは、「月の欠片」と呼ばれる薬草だ。形状が三日月を思わせる花が咲き、月明かりに照らされて花が咲き誇っていれば星の川ができるように見えることからそう呼ばれている。
本来、「月の欠片」は月明かりの出ている時に探したほうが探しやすい。星の川を探せば見つかるからだ。だが、こうして昼間に歩き回って薬草を取りに行くのには理由があった。
それは、ソレイユが知人から聞いた話に通ずる。
夜な夜な現れる小さきもの、か……。
噂になっていると、知人が言いに来たのはつい先刻のこと。眠気眼で扉を開ければ、開口一番に「おい、聞いたか⁉」と騒ぎ立てる知人に眉を寄せたのは、記憶に新しい。どうやら、小人ではなく子どものようだが、夜に現れては出会い頭に襲ってくるのだという。目的も分からず、急に襲ってくるらしく、逃げ出すことに成功したものは片手で数えられるほどだという。
おかげで夜に出歩く者がめっきり減った、という話であった。しかも、それは街や村の話だけでなく、草原やこの森でも見かけた、と噂になっているらしい。
だが、どこまでが本当なのか分からないのが、噂である。
私は基本的に夜に出歩かないのだけれど……。
夜どころか昼間でさえほとんど出歩かないソレイユだ。だが、知人に口を酸っぱくして「夜に出歩くな」と言い聞かせられれば無下にできなくなってしまう。従いたくなくとも、渋々従うしかなかった。
ソレイユは大人しくではないが、知人の忠告を受け入れることとし、こうして夜に探すほうが都合の良い薬草を、昼間に探しに出る羽目になったのである。
深くため息をついて、薬草のある場所へと向かっていく。何度か取りに行っているからか、場所はすでに把握していた。
湖の近く、そこで目的の薬草を探す。月明かりがないと咲かないため分かりにくいものの、そこは魔法使い。ソレイユにとっては朝飯前だ。薬草を間違えることなく、難なく獲得するとそのまま帰宅しようと来た道を戻ろうとした。
その時、彼の耳に悲鳴の声が飛び込んでくる。微かではあるものの、森の中では珍しい高い声だ。女性、ではないようだが、見て見ぬふりはしづらい。
ソレイユは声の方向へと視線を走らせる。周囲では見当たらない。目視できる距離で起こっているわけではないようだった。
「……もう少し、先かな」
やれやれとソレイユは首を振る。それから、飛行魔法を使うために呪文を口にした。
「<ヴォレ>」
「跳ぶ」魔法もあるのだが、今回は飛行を選択した。早めに到着したほうが良いと判断したからである。
ソレイユの周囲を風が吹き起こる。風を味方につけ、景色が遠ざかり始めた。ふわりと浮かんだ身体を気流に乗せ、ソレイユは先を急ぐのであった。
Ⅱ
ソレイユは声の方向へと迷わずに飛んで行った。視界で何かが対立しているのを捉える。目を細めて確認してみれば、大きな狼と子どもらしき人物が三人対峙していた。子どもらしき、といったのはソレイユの視界が悪いからではない。その三人の人物は背が低かったが、頭からすっぽりとローブを被っているため、断言しにくかったのである。
狼は今にでも噛みつきそうなほど、ぐるぐると唸っていた。その唸り声に、三人の人物は怖気づいているようである。だが、ただ一人だけ強気で立ち向かっているようで、何かを叫んでいたがソレイユには聞き取れなかった。
相手の狼を見て、ソレイユは先を急ぐ。相手が悪いと判断したからであった。
ソレイユは迷うことなく、上空から両者の間に割って入り、そこで着地した。
「はーい、そこまで」
突如現れたソレイユに、三人からは声が上がる。ローブを被っているが、この近さなら分かる。彼らは子どもであった。
ソレイユは子ども側は気にすることなく、狼に向き直る。
「すまないね、何か怒らせるようなことでもあったのだろう? 私から非礼を詫びよう、どうか彼らを許してやってくれないか」
ソレイユが告げれば、狼は唸り声を徐々に引っ込ませていった。
そうそう、そのままテンションを下げていって……。
ソレイユの目論見通り、狼は落ち着いたようだった。だが、一鳴きすると何かを訴えるかのように、ソレイユをじっと見つめる。
ソレイユはその視線を受け止め、それから狼の周囲をちらりと確認した。やがて、合点がいったとばかりに「ああ、」と頷いてから、ぽんと軽快に手を叩く。それから、「すまないね、」と再度謝罪の言葉を述べた。
「まさか、ここが君の家だったとは。それは失礼したね。なら、私たちがすぐに去るとしよう」
ソレイユはにこやかに告げながら、問答無用で子どもたちの背中を押してその場を立ち去ろうと歩き始めた。文句の言葉が飛んでくるが、それすらもぐいぐいと押して狼と距離を取っていく。
「すまなかったね、安心しておくれ。私たちは君に危害を加えるつもりはないよ、そう君の家族にもね」
ソレイユたちが遠ざかっていく中、大きな狼の背後から小さな姿がひょこりと現れ始めていた。狼の子どもたちだ。巣穴に隠れて、敵がいなくなるのを待っていたのだろう。
ソレイユは仲睦まじい家族の様子を確認して、口元を綻ばせるのであった。
しばらく歩いていれば、子どもの一人が声を上げる。先ほど狼に立ち向かおうとしていた子どもだ。ローブの中からルビーのように真っ赤な瞳がギラリと向けられている。三人の中で一番背が高かった。
「何すんだよっ!」
ソレイユはそれを聞いても飄々としていた。
「おや、見慣れない顔だね。ここは子どもが来るところではないよ。すぐに引き返しなさい」
その言葉に、彼はむっとしたようでさらに言い返してくる。
「子ども扱いするな!」
一人の子どもが怒る中、残りの子どもたちが涙目でお互いをひしっと抱き合う。
魔法使いはそんな子どもの様子にも飄々と返した。
「子どもだろう? 少なくとも、私からすれば皆十分子どもだ」
ソレイユはそう返してから子どもたちを追い越して歩き始めた。その間にも淡々と話し続けている。相手などお構いなしであった。
「それにしても、危なかったね。ハイウルフに喧嘩を売るのは感心しないな」
「ハイ、ウルフ……?」
別の子どもが声を上げる。その子は二番目に背の高い子どもだった。聞きなれない単語のようで、ソレイユの言葉を繰り返している。
ソレイユは「そうね」と頷いた。
「そう、あの狼はハイウルフと言ってね、気分の上げ下げが激しいんだよ。少しでも高揚すると一瞬でハイになっちゃうのさ。それが怒りだろうと喜びだろうと、どんな感情であってもね。一度ハイになっちゃうと止めるのが難しいんだよ」
「ハイ……?」
再度言葉を繰り返す二番目の子に、ソレイユは肩を竦めて再度繰り返す。
「そう、気分がハーイになっちゃって、そうなると誰にも止められないんだよ」
「……お前、ふざけているんだろ」
「やだなあ、大真面目だよ」
ソレイユは三人の子どもを見渡しながら説明を続ける。
「あそこにはハイウルフの巣があってね、子どもが巣穴に隠れていたのさ。まだ小さい子どもだ、だから親も特に気が昂っていたようでね、あと少し遅かったら手遅れだったかもしれないね」
ソレイユは淡々と恐ろしいことを告げる。何とも思っていないその声音が、さらに恐怖を増していた。
ソレイユの話を聞いていた子どもたちは顔色が真っ青であった。どれだけ危ない橋を渡ろうとしていたのか、今になって理解したのだろう。すでに二人は涙目で、多少の嗚咽も聞こえてくる。一番背の高い子どもは必死に涙が零れないように耐えているようであった。
ソレイユはその三人を見渡して、それからやれやれと小さく首を振る。そして、次に告げたのは安心させるような声音だった。
「さて、これから出口に案内してあげるから帰りなさい。子どもが森を彷徨うものじゃないよ。またいつハイウルフのように危険な獣と出くわすかも分からないからね」
ソレイユはそう言って三人に手を差し伸べた。だが、次の瞬間鋭い声が飛んでくる。
「だ、駄目だ!」
一番背の高い子どもだった。強い否定の言葉に、ソレイユは目をぱちくりとさせる。ソレイユが見つめていれば、その子どもは涙目で身体が小刻みに震えているものの、強く言い放った。
「……まだ、目的の薬草を見つけていない! 見つけるまでは、絶対に帰らないっ!」
「薬草……、ふむ……」
ソレイユは頷く。どの薬草を探しているのか、今の話からは分からないがこのまま探させるわけにもいかないだろう。今すでに獣と遭遇したばかりだ、ここで見放すのも気が引ける。
あまり過干渉したくはないんだけど……。
ソレイユは悩んだ末に、にこりと笑って。
「なら、私の家に寄っていきなさい」
そう軽く告げた。
目の前の子どもたちは呆然として、ぽかんと口を開けていたが、ソレイユは気にすることなく。彼らをツアーのように誘導し、自宅に招き入れたのであった。
Ⅲ
ソレイユは三人の子どもを自宅に招き入れ、リビングに案内する。椅子は数少ないが、何とか三人座れる物があったので、そこに誘導した。いつもは友人と言い張る知人が座る場所である。
落ち着かない様子の三人の前に茶を入れたティーカップを三つ並べて置く。
それから自分は普段から使用している愛用の椅子に腰かけ、優雅にティーカップに口をつけた。そして、ほっと一息ついてからティーカップを机に置くと、「それで?」と頬杖をつきながら普通に話を始める。
「薬草を探していると言っていたけれど、どんな薬草を探しているんだい?」
「……あんた、薬草に詳しいのか」
「まあね、人並みには詳しいかな」
「……あの、もしかして、魔女?」
一番背の高い子どもが問いかけてそれに返せば、恐る恐る紡がれたのは一番背の低い子ども。初めて話したと思ったら、その問いかけにソレイユはずるっとこけそうになった。
なんだい、魔女って……。
そう問いかけようと思ったところで、知人に言われたことを思い返す。どうやら、巷の噂では自分は「魔女」になっているらしい。どこからどう見ても男だろう、そう言いたいのに、知人には深く頷かれてこう言われたのである。
『まあ、ぱっと見、美人だもんなあ、お前』
実に遺憾ではあったが、一つ一つ訂正していたら話が進まないので、噂のままにしておくことにした。
ただ、ソレイユが面倒だっただけ、ということでもある。
ソレイユは一つ咳ばらいをしてから「まあね」と答えるだけに留めた。
すると、一番小さな子どもが続けて質問してくる。
「……なんで、わざわざ家に?」
「うん?」
ソレイユはその答えにふむと頷いてから答えた。
「私の家にあるかもしれないと思ってね。あのまま探し回るより効率も良いだろうし、獣に遭遇しても危ないからね。それに、魔法をこれ以上使わなくて良いのなら使いたくないと思って」
「あんた、魔女だよな⁉」
背の高い子どもが強く問いかける中、魔法使いだよと心の中でだけ返してからソレイユは「くどい」とだけ返した。それから、頬杖をついてふんぞり返りながら偉そうに告げる。
「あのね、魔法を使える者が皆、魔法を使いたがると思わないで欲しいかな。あれはね、体力も気力も使うから疲れるんだよ。使わなくて良いなら使わないことが正解。さっき飛行魔法を使っただけで、見てよこの脱力感。椅子に沈み切っているでしょ」
ソレイユがだらけた姿を見せれば、子どもたちは何とも言えない視線を返してきた。冷ややかな目線である。だが、ソレイユは痛くも痒くもなかった。
さらにソレイユは続ける。
「まあ、私の話は置いておいて。それで、探している薬草というのは?」
「……兄ちゃんが、探しているんだ」
背の高い子どもがポツリ、ポツリと説明を始めた。
彼らは四人兄弟で、一番上の兄が今は一緒にいないという。だが、その兄が薬草を必要としているらしく、それが「炎と氷」と呼ばれる薬草らしい。
その薬草は炎でもなく、氷でもないのだが、触るとその日の気分によって、熱く感じたり、冷たく感じたりすることからその名が付いたと言われている。草の形は炎のようにギザギザしており、葉の色が氷のように透け通っているのだ。
確か、それは裂傷に効くんだったけなあ……。
ソレイユは効能を思い出しながら、疑問を口にした。
「お兄さんは怪我でもしているのかい?」
「あんたには関係ないだろ」
背の高い子どもがふいとそっぽを向く。それを見ていた残りの二人が慌てるが、ソレイユは気にすることなく「確かに関係ないね」とだけ答えた。
まったく気にしていなかったのである。
まあ、過干渉しないって普段から決めているし。
子どもの好きにさせようじゃないか、そう思ったソレイユはよっこらせと椅子から立ち上がる。「じじくせー」なんて声が聞こえた気もしたが、それすらも気にならなかった。
何せ、何百年と生きている魔法使いである。爺、なんて言われてもまったく気にしないどころか、それが事実だったりするので否定できなかった。
ソレイユは奥の部屋に引っ込んでからずらりと並べられている棚をガサゴソと探る。背後から視線を感じたが、好きにさせることにした。そして、目的の瓶を見つけると、三人の元に戻ってきて、コトリと目の前に置いて見せる。そして、にこやかに告げた。
「はい、持っていきなさい」
目の前に出したのは、彼らの兄が探しているという、「炎と氷」だ。
子どもたちは目が零れ落ちんばかりに見開いて、それからソレイユの顔へバッと顔ごと向ける。
「こ、これ……!」
「ど、どうして……!」
「んな、あっさり!」
背の低い子ども、二番目の子ども、背の高い子どもの順で驚きの言葉が飛んでくる。
ソレイユはあっけらかんと答えた。
「おや、これがご所望だったのだろう? 家にあったから出してみたのだけれど」
ソレイユは顎に手を添えてわざとらしく告げた。興味深いとばかりに子どもたちを見渡す。
てっきり、たったと持って帰るんだろうと思っていたんだけれど……。それよりも驚きのほうが増した、ってところかな。
ソレイユが観察していれば、背の高い子どもがじっと鋭い視線を向けてくる。そして、低い声で問いかけてきた。
「何が、目的だよ」
疑いの目だ、睨みを聞かせてソレイユの思惑を探ろうとしているようだった。目の前に置かれた瓶は喉から出るほどに欲しいだろうに、手を伸ばさずにソレイユの次の言葉を待っていた。
ソレイユはおやおやと不思議に思っていた。
別に普通に渡すつもりだったんだけど……。どうやら、この子どもたちは何か事情があるようだ。
ソレイユは基本引きこもりなため、子どもと接すること自体が珍しい。それこそ、すでに何年、何十年、下手したら何百年と触れ合ってもいないかもしれなかった。
だが、そんな彼でもさすがに異常だと思う。この子どもたち、特に背の高い子どもはやけに警戒心が強いようであった。
さて、どうしたものか……。
「そんなものはないよ」と告げたところで、信用しないだろう。ならば、自分なりに何か条件を付けたほうが良いのだろうか、そう考えていたソレイユはふと一つ思いついていた。そして、ふふっと笑いを零してから満足そうに頷く。
「そうだね、タダでは上げられないかなあ」
「やっぱり、そんな上手い話があるわけねえんだっ! 何が目的だよっ!」
「簡単だよ」
ソレイユはにこやかに答える。人差し指を口元にもっていき、ぱちんと片目を瞑って見せた。
「次からは子どもだけで森に来ないこと」
「……は?」
子どもたちは呆気にとられたようであった。ぽかんと口を開けて、ソレイユに視線を注いでいる。
ソレイユはふふっと笑った。
「おや、何だい、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔は。私はごく当たり前のことを告げたつもりだったのだけれど」
ソレイユは愉快そうに笑った。
子どもたちはぽかんと口を開けていたが、やがて顔を見合わせた。どうやら、言葉が出てこないらしい。
ソレイユはにこにこと笑いながら告げる。
「大人からしたらこの森に子どもだけで来るのは見過ごせないのさ。先ほどのハイウルフのように危険な獣も多いからね、また出くわすと危険だろう? 次からは大人と来るようにして欲しいんだよ。もっとも、この森に来ないことが賢明だと私は思うけどね」
「だから、子ども扱いするなってえの!」
食ってかかってくる背の高い子どもに対して、ソレイユは淡々と返答する。
「私からしたら十分子どもだと言っただろう? それに、この森は私の根城みたいなものさ。ハイウルフとは顔見知りだったのもあってスムーズに事が運んだけどね、毎回そうもいかないんだ。まあ、要は何かあったら困るということだよ」
ソレイユは答える。すでに顔は極真面目な顔で、笑いは引っ込んでいた。
子どもたちもさすがに空気を感じ取ったのか、黙って聞いている。
「私は基本的に過干渉はしない。しないけれど、君たちぐらいの子どもを見ているとさすがに心配にはなるのさ。だから、約束してくれるかい? 次から来るとしたら大人と来る、と。そうしたらこの薬草はあげるよ」
ソレイユの言葉に、子どもたちは顔を見合わせた。どうやら、返答に迷っているようだ。だが、背の高い子どもはまたふいとそっぽを向いてしまう。
「自分で探すからいいっ!」
どうやら強情らしい。
ソレイユはニヤニヤとしながら揶揄うようにして確認する。
「おや、そんなこと言って良いのかなあ?」
意地の悪い笑みを浮かべるソレイユに、子どもたちはごくりと息を呑む。何を言われるのかと恐れているらしい。
ソレイユは顎に手を添えながら知識を披露した。
「この薬草は結構取りにくいところにあるし、子どもだけではだいぶ危ないよ。私でも気を付けて行くぐらいのところだからね。そんなところに行ったら、お兄さんが心配するんじゃないかい?」
ソレイユが彼らの兄のことを口にすれば、子どもたちはぐっと言葉に詰まった。難しい顔で唸って、薬草を睨みつけている。
……なんて、半分嘘だけど。
ソレイユはふふっと笑った。
取りにくいわけではない。そこまで危険でもないが、子どもだけではやはり簡単に取るというわけにはいかない。大人なら難なく取りに行くことができるが、子どもでは力もないし体力もない。何かあっても、自力で解決するということが難しいだろう。
さすがにそれを見過ごすわけにはいかなかった。ソレイユは目の前の子どもたちに危険な目に遭って欲しくないと思っているし、何よりこのまま送り出したんじゃ後味が悪くなってしまう。
だからこそ、ここで薬草を貰って言って欲しいと思っているのだ。
もう少し、そう思って後押しするようにさらに続ける。
「お兄さんを、喜ばせたいのだろう?」
「……」
「心配させたくないのなら、素直に貰っておきなさい。甘えるのも子どもの仕事だよ。それに、君たちが危険な目に遭ってまで薬草を取ってきたと知ったら、お兄さんは喜ばないと思うけど?」
「違うかい?」とソレイユは三人の頭を順番に撫でながら問いかける。その顔は愛おしいものを見るかのように、酷く穏やかであった。
子どもたちは惚けた顔でソレイユを見ていたが、だんだんと顔を俯かせてしまう。彼らの耳が赤いことを見ていたソレイユはその姿がやけに微笑ましく思えたのであった。
Ⅳ
「あの、また来ても良いですか?」
二番目の子どもが恐る恐る問いかけてくる。
ソレイユはにこりと微笑んだ。
「大人と一緒ならね」
「だから、子ども扱いするなってえの」
「はいはい」
いまだに言い返してくる背の高い子どもをあしらっていれば、ソレイユの足元にぎゅっと抱き着いてくる存在がいる。一番背の低い子どもだ、どうやらソレイユに懐いたらしい。特別なことを特にしていないソレイユは何故好かれたのかよく分かっていないが、好きにさせることにした。
それから子どもたちの歩幅に合わせて森の出口まで案内してやる。出口に到着すると、ソレイユは三人の顔を見て尋ねた。
「後は帰れるかい?」
「うん、ありがとう、お姉さん!」
二番目の子どもの言葉に、再度ずるっとこけそうになる。
いや、私は男なんだが……。
ソレイユはそう思いながらも、訂正することはやめておいた。「魔女」と呼ばれたままにしていたし、何より子どもの言うことだと気にしないことにしたのである。
ソレイユは子どもたちを送り出そうとして、一つ思い出した。
「ああ、そうだ」
ソレイユはポケットからある薬草を取り出す。それは、先ほど取りに行った「月の欠片」であった。これに獣除けの匂いがついていたことを思い出したのだ。
ソレイユは腰をかがめて彼らの額に口づけを送った。正確に言えば、口元にその薬草を当てて息を吹きかけたのである。一人ずつ順番に行って、最後ににこりと笑いかけた。
子どもたちはそれをぽけーっと惚けて見ていた。
ソレイユはふふっと笑って告げる。
「お守り。無事に帰れるように、ね」
「……き、気持ち悪いんだよっ、バーカ‼」
背の高い子どもが急に顔を赤くして叫びながら走り去って行く。その後を二人も慌てて追いかけたが、同じように顔が赤かった。
ソレイユは首を傾げる。
「おや、何が気持ち悪かったのかな。獣除けの薬草を吹きかけただけだったんだけど……。やれやれ、今の子どもは難しいようだ」
ソレイユは三人が走り去ったのを見届け、それから帰路へと着くのであった。
まさか、その数日後に襲撃されるなどと、この時のソレイユはひとかけらほども考えていなかったのであった――。




