序章 始まりとは突然に
暗く深いある森の奥に、ある一人の魔女が住んでいると噂されていた。
その姿を見た者はほとんどおらず、噂では魔女は大変麗しいと言われている。さらに、見た者すべてを虜にしてしまうほどだと騒がれていた。
そして、森の中に迷い込む者たちは、誰一人として帰ってこなかったという――。
「ああ、嘘、嘘。私は迷い込んだ者たちに道案内だけはしているからね。帰ったに決まっているじゃない。森に戻ってきていたら理由は知らないけど」
魔女は淡々と話した。
変わった力――魔法を使用できるからなのか、はたまた長く生きているからなのか、どんな声にも反応できるらしい。語り継ぐ声にも、わざわざ否定してくれている。
魔女は深くため息をつく。
「むしろ、ありがた迷惑なんだよね。私の根城に土足で上がり込むなんて。ここは私のお気に入りの場所なんだから、できればご遠慮願いたいね。あと、さっきから思っていたけど、『魔女』って何さ」
銀糸の長く艶やかな髪、太陽を思わせる橙の深く吸い寄せるような瞳、スラリとした高身長に加えて、眉目秀麗な整った顔。
相手を一瞬で虜にさせてしまうほどの容姿であるが、この魔女――歴とした青年である。
ただ、すでに何百年も生きている者であるため、青年という表現が正しいかは不明だったが。
さて、そんな彼はある日運命的な出会いを森で果たすこととなる。
魔女――もとい魔法使いは不思議そうに目を丸くしながら淡々と声をかける。
「おや、見慣れない顔だね。ここは子どもが来るところではないよ。すぐに引き返しなさい」
目の前には三人の子どもたちがいた。その中で身長が一番高い子どもがムッとした顔で強く言い返す。瞳がルビーのように真っ赤であった。
「子ども扱いするな!」
一人の子どもが怒る中、残りの子どもたちが涙目でお互いをひしっと抱き合う。
魔法使いはそんな子どもの様子にも飄々と返した。
「子どもだろう? 少なくとも、私からすれば皆十分子どもだ」
これが、運命的な出会いの始まりであるとは、誰が予想したことだろう。
そう、この何百年と生きてきた魔法使いでさえ知る由もなく――。




