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「あ、リリエラさんもいたんだ。こんにちわっ」
少し経って、リリエラに気付いたナナシが明るく挨拶すると、彼女は一礼して応じた。
「おはようございます、ナナシ様」
「あれっ? まだ朝くらいだった? じゃあ、おはようだったか~。僕の感覚も、いまいちアテにならないなぁ。ここに住んでから長いのに、自信なくしちゃうよー」
「いえ、どちらでもよい程度の頃合いにも思えます」
「そっかー、じゃあ、気にしないでおこっと。……ところで」
リリエラと話し続けていたナナシが、なぜか屈み込んでいた彩音の顔を覗き込む。
「おねえちゃん、どしたの? さっき何だか、すごいはしゃいでたし……急に疲れちゃった?」
「……あ、あのっ、違うの……さっきは、あれ、あの……ずっと心細くって、ナナシくんが来て、安心して……それでちょっと、へ、変なテンションになっちゃっただけなの……だから、いつもはあんな風じゃないのっ! ち、ちがうのっ!」
「えー? さっきのおねえちゃん、面白かったけどなー。元気いっぱいで!」
「……ち、ちがう、の……」
沸騰するのではないかというほど顔中を真っ赤にした彩音に、ナナシが首を傾げる。まあそれはそれ、とでも言うように、ナナシが話を切り替えた。
「さっきのアイツはさ、ここからは遠い所で撒いたから、当分はこっちに近づかないと思うし、安心してね」
「……そ、そう、それは、あの、良かったわ」
少しずつ落ち着きを取り戻しつつある彩音が、まだ赤らんでいる顔を僅かに上げた。
「でも、もうあんな無茶しないで……本当に、心配したんだからね」
「え、うーん……でも捕まって何されても、そのうち元に戻るんだしさ」
「それでもよ。だって、無茶苦茶にされちゃうなんて、怖いじゃない……」
「うーん……わかったよ、おねえちゃんがそう言うなら、出来るだけ気をつけるよ」
出来るだけ気をつけるとはぐらかし、確約していない辺りに不安は残る。しかしそれも自由というやつだろうか、と彩音は何となく溜め息を吐いた。
「はぁ……もう、仕方ないんだから……」
小さく肩を落とす彩音に、ナナシは何か思いついたのか、探るように尋ねてくる。
「……おねえちゃん、ところでさ、お腹とか減ってない?」
「えっ? え……っと」
ナナシに尋ねられて、そういえばここへ来てから何も口にしていないということに、彩音は初めて気が付いた。気付くのと同時に、何だかお腹が空いているような気分にもなる。
聞かれるまで気付かないというのも、不思議なものだ。そういうものだろうか、と彩音は首を傾げながら、ナナシへと返事することにした。
「ちょっと、減ってる……かも?」
「えっ、ホント? ~~~っ、やったぁ!」
何が『やった』なのか分からず更に首を傾げる彩音の左手を、ナナシが興奮気味に引っ張った。
「それじゃ、ご飯にしようよ! ほらほら、こっちこっち、早く早く~! リリエラさんも手伝ってねっ!」
「えっ? ちょ、ちょっと、なんなのっ? な、ナナシくん?」
訳が分からないまま客間の右奥隅にある扉へと、彩音はナナシによって連れ込まれる。そんな二人の後に――
「……………」
無表情のリリエラが、黙って付き従った。




