第35話 幕間 共同救済(王国中枢)
「——共同救済の形にする」
側近が言った。
机の上には紙が積まれている。
側近は紙の束を指で叩く。
「政務局の文書ではだめだ。
教国に宣伝と見なされる。政敵に捏造と見なされる。
こちらが書いた紙は、こちらの都合で書き換えられると思われる」
役人が口を挟んだ。
「教国の白印庁は政治に関わりません」
側近は一拍も置かない。
「だから、こちらで指定する」
側近は息をつかずに言った。
視線だけで、場が静まる。
「政治が口を挟めないところに残す。
こちらの手が届く紙は、都合で書き換えられると思われる。
そう思われた時点で、もう効かない」
教国の白印庁——教国中枢に置かれた独立の記録保全機関だ。
命令系統からは切り離されている。
救済の手順と、責任がどこを通ったかを、あとから確かめ直せる形で残す。
それだけのためにある。
誰も反論しなかった。
反論できる話ではなかった。
王国だけでは、避難民を賄えない。
北方は、もう回復できない。
救済は、教国の手で回っている。
だが教国が単独で救えば、次は“救済”ではなく“編入”になる。
側近が言った。
「——派遣を要請する」
「誰を?」という声が出かけて、止まった。
その問い自体が、白印庁に政治を持ち込む。
側近は冷たく返す。
「誰でもいい。白印庁が決める」
そして、ここだけは丁寧に言い直した。
「こちらは記録の置き場を決めるだけだ。
共同救済の記録が要る。
共同だった、という形だけを残せ」
英雄にすれば、失態は上書きできる。
主権を誇示できる。
だが誇示しすぎれば、教国依存を突かれる。
だから共同救済だ。
王国が救い、教国も救った。
両方が言える形にする。
グラナス国王は黙って聞いていた。
黙っている間に、すべてが決まっていく。
最後に、短く言う。
「要請しろ」
それで決まった。
剣は目の前を切る。紙は国を切る。
そして紙は、誰の許しもなく走り出す。




