↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/51

第30話 分類不能(エルネスト)

訓練名目だった。


掲示板にはそう書かれている。

個別対応訓練。

前線経験者向け。


それ以上の説明はない。


呼ばれたのは、昼過ぎ。

剣術の訓練場でも、魔術棟でもない。

二つの間にある、半端な訓練場だ。


地面は整えられているが、線は引かれていない。

遮蔽物も少ない。

だが、完全な平地でもない。


実戦を意識している、というより、

実戦に似せ過ぎない場所だった。


エルネストが入った時、すでに何人かがいた。

数は、五。


装備は訓練用。

刃は潰され、矢は軽い。

殺せないが、怪我はする。


誰も笑っていない。

だが、場は緩い。


「鍛えてやるよ」


最初に言ったのは、学院の匂いが抜けていない一人だった。

声は明るい。

悪意は薄い。


「前線帰りって聞いた。

 剣も魔術も、それなりなんだろ?」


それなり、という言葉が選ばれている。

見下してはいない。

だが、同列にも置いていない。


「反撃はなしだ」


別の一人が言う。

これは確認だ。


「訓練だからな。

 事故は困る」


エルネストは、剣を抜かなかった。


頷く。


それだけで、場が動く。


煙幕が張られる。

薄い。

だが、切れ目が多い。


訓練用の矢が飛ぶ。

一斉ではない。

間を置いて、散らすように。


剣の気配。

足音。

左右から。


エルネストは、前に出ない。


下がらない。

止まる。


矢が来る。

矢避けは使わない。

出せる距離だが、出さない。


肩をひねり、半歩だけずらす。

矢は鎧をかすめて落ちる。


剣が来る。

受けない。

止めない。


剣先の軌道を見て、身体ごと外す。

刃が、空を切る。


一人。

二人。


誰も倒れない。

誰も当たらない。


時間だけが過ぎる。


攻める側の呼吸が、先に乱れる。

足音が重くなる。

矢の間隔が縮む。


焦りが、形になる。


エルネストは、剣を振らない。

魔術も使わない。


ただ、全体を見ている。


切れ目。

重なり。

戻りきれない位置。


違うのは、殺さないことだけだ。


最後に、誰かが言った。


「……終わりでいいだろ」


それは合意だった。

敗北宣言ではない。


誰も倒れていない。

誰も勝っていない。


だが、もう続けられない。


空気が、止まった。


⸻


少し離れた場所で、ロウェンは見ていた。


最初は、よくある訓練だと思った。

数で圧して、反応を見る。


だが、途中で違和感に気づく。


――測れない。


上手いかどうかではない。

強いかどうかでもない。


基準に当てはまらない。


反撃しない。

守りに寄りすぎない。

逃げもしない。


全体を見て、崩れない位置に居続ける。


帳簿のどこにも、判定を書き込めない。


ロウェンは、誰にも声をかけない。

教官も、手を出さない。


止める理由がないからだ。


事故は起きていない。

規定も破っていない。


ただ――

分類できないものが、残った。


⸻


訓練場を出る時、

誰もエルネストに声をかけなかった。


避けているわけじゃない。

距離を測っている。


あれは、何だ。

味方か。

部品か。

異物か。


分からないものは、

すぐには触られない。


ロウェンは、その背中を見て思う。


――決まったな。


勝敗ではない。

評価でもない。


ただ、空気が変わった。


エルネストは、何も知らないまま歩いている。

剣も抜かず、魔術も使わず。


それでも、訓練区画の中で、はっきりと“別”に分類された。


残ったのは、分類不能という言葉だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。