第21話『引き際の美学』小山 遼
やめたい、けどやめたくない。
未練って、かっこ悪いけど大切だ。
小山遼は、昼食をとりながらグラウンドをぼんやり眺めていた。
後輩たちがバスケ部の練習をしている。
(ちゃんとやってんな……俺の時より全然形になってるじゃん)
そう思って微笑む――フリをする。
本当は、内心ちくりと痛かった。
2学期最初の大会前、ベンチに名前がなかった。
努力もした。誰よりも真面目だった自信もあった。
でも、コーチに言われたのは一言。
「小山、お前は器用だけど、覇気がない」
その日から、心が離れていった。
そして自分から「辞めます」と言った。
“選ばれなかった”ことから逃げるように。
「何かを“やめた”って、自分で決めたように見えて、本当は“追い出された”ように感じることもあるよね」
三崎いろはの言葉が、風に乗って聞こえた。
(ああ……それ、俺のことだ)
図星だった。誰にも言っていなかった本音を、言い当てられた気がした。
体育館の外から、ドリブルの音が聞こえてくる。
後輩たちの声、シューズの摩擦音。
(俺、あの場所に、もう戻れないんだよな)
そう思いながら足を止めた。
ドアの隙間から見えたのは、自分がいたはずの景色。
でも、そこに自分の姿はなかった。
やめてから、心は軽くなった。
でも、どこかでずっと、空っぽだった。
“もういい”って言ったのは、
誰かに「それで正しい」って言ってほしかっただけ。
誰にも認められなかったことを、
「俺の選択だった」と言い聞かせることで、誇りにすり替えてた。
昇降口で羽山とすれ違った。
「……部活、やめたんだって?」
羽山が珍しく自分から声をかけてきた。
「うん。まあ、“引き際”ってやつ?」
笑ってみせたが、羽山は少し間を置いて言った。
「“それでよかった”って思えてんなら……すごいな」
その言葉に、なぜか涙が出そうになった。
“諦めたフリ”はもうやめよう。
本当の気持ちは、ちゃんと悔しかったんだから。
後悔は、未来への一歩になる。
次回も、教室の中で。




