第13話『リア充の嘘』田口 梨乃
SNSの中の自分と、現実の自分。
誰かに“いいね”されるための嘘。
「#図書室でのひととき #放課後の余裕 #読書女子っていいよね」
田口梨乃は、スマホの画面を指でなぞりながら、
今日撮った1枚の写真をアップした。
本を開いた手元と、背景の窓と光。
顔は写っていないけど、雰囲気は“リアルっぽさ”を演出している。
何人かがすぐに「いいね」を押す。
その数字が上がるたび、心のどこかがホッとする。
(私は、ちゃんと“選ばれてる”。ちゃんと、“ここにいる”。)
……そう思いたかった。
教室では、特に親しい子がいるわけじゃない。
お昼はコンビニパンとスマホが友達。
図書室にも顔を出すけど、誰かと話すわけじゃない。
「投稿の中の私」が、“本当の私”みたいな気がしていた。
放課後の図書室。
いつものように1人でスマホを開いていたとき、
三崎いろはがふと隣に座った。
「あ、この本、面白いよね。私も好き」
話しかけられた。それだけで、心臓が跳ねた。
(え、私のこと……知ってるの?)
でも、言葉がうまく返せなかった。
「うん……うん」
それだけを返して、目をそらした。
「また見かけたら話しかけるね」
そう言って、いろはは笑って去っていった。
その笑顔は、明るくて自然で、誰にも等しく優しい。
でも――梨乃には、それが少しだけ苦しかった。
(あの子は、演じてるんじゃなくて、本当に“ああ”なんだ)
自分が加工して演出して、バズらせてる“完璧な私”とは違う。
“存在そのものがまぶしい”誰かを前にすると、
SNSの数字なんて、意味を持たなくなる。
フォロワーは3000人。
毎日100以上の「いいね」がつく。
でも、それを知ってるクラスメイトはいない。
自撮りも出してない。誰にも“中の人”だとバレたくない。
(だって、現実の私は……ただの地味な女の子だから)
本当の私には、自信がない。
だから、SNSの中でしか、私は“誰か”になれない。
その日の夜、昼にあげた投稿が軽くバズった。
知らない人たちがコメントしてくる。
「雰囲気エモすぎ」
「推せる」
「まさに理想の高校生活」
でも、画面を閉じたあと。
部屋の電気を消したあと。
心は、空っぽだった。
「いいね」は増えた。
でも、誰にも“私”を見つけてもらえた気はしなかった。
誰かに見てほしかった。
それが、彼女の本音かもしれません。




